セキュリティに関するご相談→
情報漏えい原因調査レポート No.013

楽天トラベルへの不正アクセスで最大約260万件などが対象に。何が分かり、何が分かっていないのか

楽天グループは2026年10月26日、「楽天トラベル」の海外ホテル予約サイトの一部ページと、多言語予約サイトへの不正アクセスを公表した。2つの事象で、利用者と宿泊施設の従業員の情報が対象になった。件数は4つの「最大約」に分かれ、報道の要約では一部が抜け落ちた例もある。発表の原文から、何が何件なのか、侵入の経路について何が公表され、何が公表されていないのかを整理する。

楽天グループ株式会社(楽天トラベル)のロゴ
楽天グループ株式会社(楽天トラベル)travel.rakuten.co.jp
2026年10月26日 公開KEYRING編集部2026年10月26日時点の公開情報にもとづく読了の目安 約40分

数字で見る今回の事案

出典は各数字の下に記載
事象① ログインした利用者
最大約260万件

海外ホテル予約サイトの一部ページ。氏名・メールアドレス・電話番号・社内用の識別番号(楽天グループの発表)

事象① 予約した利用者
最大約4万件

氏名・連絡先・居住国・予約情報・同伴者の氏名と居住国など(同)

事象① うち支払情報も対象
最大約3万6千件

カードの発行者識別番号と下4桁・名義・有効期限・国際ブランド区分。番号の全桁とセキュリティコードは含まない(同)

事象② ログインした利用者
最大約86万件

多言語予約サイト。メールアドレスと社内用の識別番号(同)

事象② 宿泊施設の従業員
最大約4万件

多言語予約サイトの管理画面で入力されたアカウント名・メールアドレス・社内用の識別番号(同)

検知から公表まで
46日と6日

事象①は9月10日、事象②は10月20日に検知し、どちらも10月26日に公表。日付の差を編集部が数えたもの

エグゼクティブ
サマリー

  1. 不正アクセスは2つあり、管理する会社も時期も違う。事象①は、子会社のRakuten Travel Xchangeが管理・運営する海外ホテル予約サイトの一部ページで、9月10日に異常を検知した。事象②は、楽天グループが管理・運営する多言語予約サイトで、10月20日に不正アクセスの可能性を検知した。楽天グループは2つを1本の発表にまとめ、10月26日に公表した。
  2. 件数は「最大約」で4つに分かれ、同じ「約4万件」が2回出てくる。事象①はログインした利用者が最大約260万件、予約した利用者が最大約4万件(うち支払情報が最大約3万6千件)。事象②はログインした利用者が最大約86万件、宿泊施設の従業員が最大約4万件。予約者の約4万件と従業員の約4万件は別のものだ。
  3. カード番号の全桁とセキュリティコードは含まれていない。事象①の支払情報は、カードの発行者識別番号と下4桁、名義、有効期限、国際ブランド区分。楽天グループは、対象となった情報のみでは決済やキャッシングの不正利用はできないとしている。事象①の予約者の項目に付いた注記で、パスワード、パスポートなどの身分証明書情報、住所は含まれないとされている。ログインした最大約260万件にこの注記がかかるかは、発表の書き方からは読み取れない。事象②にパスワードが含まれるかは記載がない。
  4. 侵入の経路と手口は公表されていない。発表には「異常を検知」「原因を特定」「システム改修を完了」と書かれているが、原因の中身は書かれていない。2つの事象に関係があるかどうかも公表されていない。
  5. 10月上旬の「楽天会員1億100万件」の販売投稿とは、別の話として扱う。サイバー犯罪フォーラムへの販売投稿について、楽天グループは10月7日までに、情報漏えいが発生したという事実は確認されていないと回答していた。今回の発表は、その投稿との関係に触れていない。

1はじめに

2026年10月26日、楽天グループ株式会社は、旅行予約サービス「楽天トラベル」のサイトに「海外ホテル予約サイトの一部ページならびに多言語予約サイトに関するお詫びとお知らせ」を掲載しました。海外ホテル予約サイトのうち、楽天グループの子会社であるRakuten Travel Xchangeが管理・運営する一部のページと、楽天グループが管理・運営する多言語予約サイトに、社外の第三者による不正アクセスがあったことを確認したという内容です。

発表は2つの事象を1本にまとめています。事象①は海外ホテル予約サイトの一部ページ、事象②は多言語予約サイトです。対象となった情報は、事象①では予約した利用者とログインした利用者、事象②ではログインした利用者と宿泊施設の従業員で、それぞれ「最大約」の件数が示されています。

発表の当日から、報道各社がこの件を伝えました。ただ、件数が4つに分かれ、同じ「約4万件」が別の意味で2回出てくるため、要約のしかたによっては一部の件数が抜け落ちます。このレポートでは、楽天グループの発表の原文を最初に読み、何が何件なのかを書き分けたうえで、次の問いに答えます。

  • 2つの事象は、いつ検知され、いつ改修され、いつ公表されたのか
  • それぞれの事象で、どの情報が何件対象になったのか。何は含まれていないのか
  • 侵入の経路について、何が公表され、何が公表されていないのか
  • 10月上旬の「楽天会員1億100万件」の販売投稿と、どう違うのか
  • 旅行や宿泊の予約情報は、なぜ狙われるのか
  • 利用者、宿泊施設、企業は、いま何を確かめればよいのか
調査の方法と範囲

2026年10月26日までに公開された情報を対象にしました。件数は楽天グループの発表の表記(「最大約260万件」「最大約3万6千件」など)に合わせ、「最大」「約」の留保を落とさずに書いています。編集部が計算した値(日数の差など)はその旨を記しました。数字は半角で書き、発表の原文どおりと断った引用と表だけ、原文の全角の表記(「3万6千件」)を残しています。侵入の経路、2つの事象の関係、報告した海外の当局の名前など、楽天グループが公表していないことは「公表されていない」と書き、推測では埋めていません。一般的な手口や過去の事案に触れる箇所は、本件に当てはまるかどうかは分からないことを明記しています。

22つの事象と、公表までの経緯

事象①の異常の検知は9月10日、事象②の不正アクセスの可能性の検知は10月20日で、約6週間離れています。楽天グループは、どちらについても、検知のあと原因を特定し、システムを改修したと書いています。公表は2つ同時に、10月26日に行われました。

図表12つの事象の経緯(日本時間)
  1. 9月10日事象①
    海外ホテル予約サイトの一部ページで異常を検知

    Rakuten Travel Xchangeが管理・運営する一部のページで、異常を検知した。

    出典:楽天グループ(10月26日)
  2. 9月15日事象①
    原因を特定

    原因の中身は公表されていない。

    出典:楽天グループ(10月26日)
  3. 9月16日事象①
    システム改修を完了

    その後の社内調査で、お客様情報が不正アクセスの対象となったことを確認した。確認した日付は公表されていない。

    出典:楽天グループ(10月26日)
  4. 10月4日〜7日別件
    「楽天会員1億100万件」の販売投稿と、楽天の否定

    サイバー犯罪フォーラムへの投稿が4日に確認されたと報じられた。楽天グループはITmedia NEWSの取材に、情報漏えいが発生したという事実は確認されていないと回答した(8章)。

    出典:ITmedia NEWS(10月7日)
  5. 10月20日事象②
    多言語予約サイトで不正アクセスの可能性を検知し、原因を特定

    検知と原因の特定は同じ日だった。

    出典:楽天グループ(10月26日)
  6. 10月21日事象②
    システム改修を完了

    調査の結果、お客様情報と宿泊施設の従業員の情報が対象となったことを確認した。

    出典:楽天グループ(10月26日)
  7. 10月26日
    2つの事象をまとめて公表

    楽天トラベルのサイトに「お詫びとお知らせ」を掲載。個人情報保護委員会と国外の各関係当局に報告したとした。対象の利用者・予約者には順次、個別に連絡すると書いている。

    出典:楽天グループ(10月26日)、TRAICY(10月26日)
図表2検知から公表までの日数
事象① 海外ホテル予約サイトの一部ページ 9/10 検知 9/15 特定・9/16 改修 10/26 公表 検知から公表まで 46日 事象② 多言語予約サイト 10/20 検知・特定、10/21 改修 10/26 公表(検知から6日)

楽天グループの発表(10月26日)をもとにKEYRING編集部が作成。日数は日付の差を編集部が数えたもの。濃い部分は検知から改修完了まで。横軸は9月10日から10月26日までの日数にほぼ比例

事象①では、改修の完了(9月16日)から公表(10月26日)まで40日あります。発表には、改修のあとに「社内調査の結果」対象となった情報を確認したと書かれていますが、その確認がいつだったかは書かれていません。公表までの期間の多くが調査に使われたのかどうかは、発表からは分かりません。

楽天グループは、時期も運営する会社も違う2つの事象を、1本の発表にまとめました。発表の中では「事象①」「事象②」と見出しを分け、概要、対象となる情報、問い合わせ先をそれぞれ別に書いています。2つをまとめて公表した理由は書かれていません。読む側は、どの件数がどちらの事象のものかを、見出しで確かめながら読む必要があります。

発表の掲載先は楽天トラベルのサイトです。編集部が10月26日20時40分ごろに確認した時点では、楽天グループのコーポレートサイトの「プレスリリース」と「お知らせ」の一覧に、この件の掲載はありませんでした。

3事象①:海外ホテル予約サイトの一部ページ

事象①の舞台は、楽天トラベルの海外ホテル予約サイトのうち、子会社のRakuten Travel Xchangeが管理・運営する一部のページです。業界紙のトラベルボイスによると、Rakuten Travel Xchangeはシンガポールを拠点に、楽天グループで宿泊施設のホールセールと旅行テクノロジー事業を担う会社で、楽天トラベルの在庫に加えて、世界のホテルの在庫を仕入れて流通させています。

楽天グループは、事象①で対象となった情報を、予約した利用者とログインした利用者の2つに分けて示しています。

図表3事象①で対象となった情報
対象件数情報の項目
一部のページから予約した利用者最大約4万件氏名、メールアドレス、電話番号、居住国、社内用の識別番号、予約情報(施設名、予約金額等)、同伴者の氏名、居住国
上の予約者のうち、支払情報も対象最大約3万6千件クレジットカードの発行者識別番号と下4桁、名義、有効期限、国際ブランド区分
一部のページでログインした利用者最大約260万件氏名、メールアドレス、電話番号、社内用の識別番号

出典:楽天グループ「海外ホテル予約サイトの一部ページならびに多言語予約サイトに関するお詫びとお知らせ」(2026年10月26日)。件数の表記は原文どおり

図表4事象①の件数の関係
ログインした利用者 最大約260万件 氏名・メールアドレス・電話番号・社内用の識別番号 予約者とログイン者が どれだけ重なるかは 公表されていない 予約した利用者 最大約4万件 氏名・連絡先・居住国・識別番号・予約情報・同伴者の氏名と居住国 うち支払情報も 最大約3万6千件 発行者識別番号と下4桁・名義・有効期限・国際ブランド区分 番号の全桁とセキュリティコードは含まない

楽天グループの発表をもとにKEYRING編集部が作成。面積は件数に比例していない。予約者の枠を点線にしたのは、ログイン者との重なりが公表されていないため

予約した利用者の情報には、施設名と予約金額を含む予約情報と、同伴者の氏名と居住国が含まれます。同伴者は、楽天トラベルを自分で使っていない人の場合もあります。楽天グループは「対象となる利用者様・予約者様」に個別に連絡するとしていますが、同伴者に直接連絡するかどうかは発表に書かれていません。予約した人から同伴者に伝えることが、同伴者が事案を知る主な道になると考えられます。ログインした利用者の最大約260万件は、件数が最も多い一方、項目は氏名、メールアドレス、電話番号、社内用の識別番号に限られています。

支払情報に含まれるもの、含まれないもの

楽天グループは、事象①の支払情報に含まれる項目を示し、事象①の予約者の項目の直後に、含まれない情報についての注記を付けています。この注記は、ログインした最大約260万件の項目の前に置かれており、260万件にかかるかどうかは発表の書き方からは読み取れません。

図表5支払情報と、事象①の予約者の項目の注記で含まれないとされた情報
区分項目
支払情報に含まれるクレジットカードの発行者識別番号と下4桁、名義、有効期限、国際ブランド区分
予約者の項目の注記で
含まれないとされたもの
クレジットカードの番号全桁、セキュリティコード、パスワード、パスポート等の身分証明書情報、住所
楽天グループの説明今回対象となる支払情報のみでは、決済(お買い物・旅行予約)やキャッシングなどの不正利用は出来ない(支払情報の注記より。発表の末尾にも「今回の不正アクセスの対象となった情報のみでは」で始まる同じ趣旨の文がある)

出典:楽天グループ(2026年10月26日)。「発行者識別番号」はカード番号の先頭の数桁で、カードを発行した会社を示す番号

発行者識別番号と下4桁、名義、有効期限がそろうと、カードの番号の全桁はなくても、「どの会社の、末尾が何番のカードか」を示すことができます。これは一般論ですが、カード会社や予約サイトを名乗る連絡で、本物らしく見せる材料になりえます。楽天グループは、対象の利用者に個別に連絡し、注意喚起を行い、二次被害の防止措置を講じるとしています。

対象となったページのエリア

楽天グループは、事象①の対象となった海外ホテル予約ページのエリアも示しています。対象は宿泊先のエリアで、利用者の居住地ではありません。

図表6事象①の海外ホテル予約ページの対象エリア
区分エリア
対象ヨーロッパ、アメリカ・カナダ、アジア・オセアニアの一部対象国・地域
対象から除く韓国、台湾、香港、シンガポール、マカオ
一部の地域を除く国タイ、ベトナム、フィリピン、インドネシア、米国(ハワイ、グアム、ロサンゼルス他)

出典:楽天グループ(2026年10月26日)。「一部の地域を除く国」は、原文の「他以下の国の一部地域」を編集部が言い換えたもの。どの地域が除かれるかの詳細は原文を参照

4事象②:多言語予約サイト

事象②の舞台は、楽天グループが管理・運営する多言語予約サイトです。楽天トラベルのサイトの言語切り替えからは、英語、韓国語、繁体字中国語(台湾・香港)、簡体字中国語、タイ語、インドネシア語、ベトナム語のページに移ります。発表に載っている事象②の問い合わせ先は、英語、韓国語、繁体中文(香港)、繁體中文(台灣)の4つです。

図表7事象②で対象となった情報
対象件数情報の項目
多言語予約サイトにログインした利用者最大約86万件メールアドレス、社内用の識別番号
多言語予約サイトの管理画面で入力された宿泊施設の従業員最大約4万件アカウント名、メールアドレス、社内用の識別番号

出典:楽天グループ(2026年10月26日)。件数の表記は原文どおり

事象②の利用者の情報は、メールアドレスと社内用の識別番号の2項目です。氏名や電話番号、予約情報、支払情報は、事象②の対象の項目に挙げられていません。一方、事象②には利用者だけでなく、宿泊施設の側で多言語予約サイトの管理画面を使う従業員の情報が含まれています(6章)。

事象②は、検知した10月20日のうちに原因を特定し、翌21日に改修を終えています。検知から公表までは6日でした。

10月26日20時40分ごろの時点で、編集部は英語版のサイト(travel.rakuten.com)のトップページから、同じ内容のお知らせへのリンクを見つけられませんでした。楽天グループは対象者に個別に連絡するとしており、その連絡がどの言語で届くかは発表に書かれていません。

楽天グループが挙げた対応

発表の後半には「当社の対応」として、アクセス経路の遮断、システムの改修、お知らせのサイト掲載とお客様への個別通知、個人情報保護委員会と国外の各関係当局への報告の4つが挙げられています。あわせて、当社のセキュリティ専門チームによるモニタリングの結果、当該サイト以外では同様の事象は確認されていないこと、本件を厳粛に受け止め、セキュリティ対策の強化など再発防止に引き続き取り組むことが書かれています。

「アクセス経路の遮断」という言葉からは、第三者が使った経路を楽天グループが特定し、閉じたことが読み取れます。一方で、その経路が何だったのか(脆弱性なのか、認証情報なのか、設定なのか)は書かれていません。再発防止策の具体的な内容も、10月26日時点では公表されていません。

楽天グループの発表より

「なお、今回の不正アクセスの対象となった情報のみでは、決済(お買い物・旅行予約)やキャッシングなどの不正利用は出来ません」

楽天グループ「海外ホテル予約サイトの一部ページならびに多言語予約サイトに関するお詫びとお知らせ」(2026年10月26日)

54つの「最大約」を読み分ける

発表に出てくる件数を並べると、最大約260万件、最大約4万件、最大約3万6千件、最大約86万件、最大約4万件の5つです。このうち最大約3万6千件は予約者の約4万件の内数なので、独立した集団は4つになります。どの件数にも「最大約」が付いています。

図表8発表に出てくる件数
事象① ログインした利用者最大約260万件事象② ログインした利用者最大約86万件事象① 予約した利用者最大約4万件 うち支払情報も最大約3万6千件事象② 宿泊施設の従業員最大約4万件

出典:楽天グループ(2026年10月26日)。棒の長さは件数に比例(小さい件数の棒は短く見える)。すべて「最大約」の件数。「うち支払情報も」は「事象① 予約した利用者」の内数

件数の多い順に並べると、事象①のログイン者(最大約260万件)、事象②のログイン者(最大約86万件)が上位で、事象①の予約者と事象②の従業員はどちらも最大約4万件です。4つを足すと最大約354万件になりますが、楽天グループは合計を示していません。同じ人が事象①と事象②の両方に含まれる場合や、事象①の予約者がログイン者にも含まれる場合があるかどうかは公表されていないため、足した数を「影響を受けた人の数」として扱うことはできません。

図表92つの「最大約4万件」の違い
項目事象①の約4万件事象②の約4万件
誰の情報か海外ホテル予約サイトの一部ページから予約した利用者多言語予約サイトの管理画面で入力された宿泊施設の従業員
主な項目氏名、連絡先、居住国、予約情報、同伴者の情報。うち最大約3万6千件は支払情報もアカウント名、メールアドレス、社内用の識別番号
管理・運営Rakuten Travel Xchange楽天グループ
問い合わせ先事象①の専用メールアドレス宿泊施設の関係者向けのフォーム

出典:楽天グループ(2026年10月26日)

要約で件数の一部が抜けることがある

編集部が10月26日20時40分ごろまでに見た報道には、5つの件数をすべて書いたものと、一部の件数だけを挙げたものがありました。一部だけを挙げた要約の中には、事象①の予約者の約4万件(うち支払情報約3万6千件)と事象②のログイン者の約86万件だけを挙げ、事象①のログイン者の最大約260万件と、事象②の従業員の最大約4万件が入っていないものもありました。

要約だけを読むと、事象①の対象は約4万件と受け取れます。実際には、事象①の件数として最も大きいのは、ログインした利用者の最大約260万件です。件数の多い発表では、要約のどこかで内訳が落ちることがあります。数字を引用するときは、発表の原文の該当箇所に当たることが確実です。

図表10件数を引用するときの書き方の例
例書き方読み手が受け取る内容原文との関係
例1「海外ホテル予約サイトで最大約4万件」事象①の対象は約4万件ログインした利用者の最大約260万件が抜ける
例2「楽天トラベルで約4万件、うち3.6万件は支払情報」全体で約4万件事象②の従業員の約4万件と、2つのログイン者の件数が抜ける
例3「合計で約354万件が流出」約354万人の情報が外に出た楽天グループは合計を示していない。重なりも「流出」したかどうかの区別も公表されていない
原文に沿う「事象①はログイン者最大約260万件と予約者最大約4万件(うち支払情報最大約3万6千件)、事象②はログイン者最大約86万件と施設従業員最大約4万件が不正アクセスの対象」2つの事象と4つの集団が分かる発表の内容に沿う

楽天グループの発表(2026年10月26日)をもとにKEYRING編集部が作成。上の3行は、読み違えが起きやすい書き方の例

6宿泊施設の従業員の情報

事象②の最大約4万件は、多言語予約サイトの「管理画面で入力された」宿泊施設の従業員のアカウント名、メールアドレス、社内用の識別番号です。楽天グループは、宿泊施設の関係者向けに別の問い合わせフォームを用意しています。発表には、パスワードが事象②の対象に含まれるかどうかの記載はありません。事象①の「パスワード…も含まれておりません」という注記は、事象①の予約者の項目の直後に付いており、ログインした最大約260万件や事象②にかかるものかは、発表の書き方からは読み取れません。

宿泊施設の従業員のメールアドレスとアカウント名は、それだけで予約を操作できる情報ではありません。ただ、一般に、宿泊施設の担当者は予約サイトの運営会社からの連絡を日常的に受け取っています。運営会社を装った連絡が担当者に届くと、本物との見分けがつきにくくなります。これは一般論で、本件で従業員あての不審な連絡が確認されたとは公表されていません。

図表11宿泊施設の担当者を狙う連絡の、一般的な流れ
1 装う 予約サイトを装う メールを担当者へ 2 盗む 偽のページで入力・ 不正なプログラム 3 入る 施設の管理画面に ログイン 4 だます 宿泊客に偽の連絡 支払い情報の入力を求める 一般的な手口の整理。本件でこの流れが起きたとは公表されていない

Microsoft Threat Intelligence「Phishing campaign impersonates Booking.com, delivers a suite of credential-stealing malware」(2025年3月13日)をもとにKEYRING編集部が作成。Microsoftは、2024年12月から宿泊業の担当者を狙い、旅行予約サイトを装うフィッシングの攻撃を観測したと報告している

対象となった施設の従業員は、楽天グループの宿泊施設向けフォームで、自分の情報が含まれるかを問い合わせることができます。あわせて、多言語予約サイトの管理画面のパスワードを、ほかのサービスと使い回していないかを確かめておくと、今後の不正なログインへの備えになります(編集部の推奨)。

Microsoftは2025年3月、旅行予約サイトのBooking.comを装うメールで宿泊業の担当者を狙う攻撃を報告しました。偽のCAPTCHA(人間かどうかを確かめる画面)を表示して、利用者に不正なプログラムを実行させる手口で、目的は認証情報の窃取と金銭の詐取とされています。Booking.comも宿泊施設向けのページで、フィッシングとなりすましメールの見分け方と、疑わしいメールを受け取ったときの報告の方法を案内しています。Booking.comの案内は、急がせる言い回しや、送信元のアドレスの不自然さを見分けの手がかりに挙げ、疑わしいメールを報告すること、送信ドメインの認証の仕組み(DMARC)を使うことなどを勧めています。Microsoftは、同じ攻撃者が2023年には、Booking.comを使う宿泊客を似た手口で狙っていたとも報告しています。宿泊施設の担当者と宿泊客の両方が、同じ種類の手口の対象になってきたことが分かります。宿泊施設の担当者のメールアドレスが外に出た場合、こうした連絡への備えが一段と大切になります。

7分かっていること、分かっていないこと

10月26日時点で、楽天グループの発表はこの1本です。侵入の経路や原因の中身は、まだ公表されていません。

図表12公式発表で確認できる範囲(10月26日時点)
項目公表されていること
侵入の経路と手口公表されていない。「異常を検知」「原因を特定」「システム改修を完了」とだけ書かれている
2つの事象の関係公表されていない。管理・運営する会社と検知の時期は別
不正アクセスが始まった時期公表されていない。分かっているのは検知の日(9月10日、10月20日)
対象となった件数と項目図表3・図表7のとおり。すべて「最大約」
件数の重なり公表されていない(事象①の予約者とログイン者、事象①と事象②の間)
対象の範囲が広がったかどうかセキュリティ専門チームのモニタリングの結果、当該サイト以外では同様の事象は確認されていない
二次被害本件に起因すると考えられる二次被害や、その他サービスへの影響は、現時点では確認されていない
当局への報告個人情報保護委員会と国外の各関係当局へ報告。報告した日と、海外の当局の名前は公表されていない
利用者への連絡対象の利用者・予約者に順次、個別に連絡と注意喚起を行う
事象②の従業員の情報にパスワードが含まれるか発表に記載がない
警察への相談発表に記載がない

出典:楽天グループ(2026年10月26日)

4つの集団のすべてに「社内用の識別番号」が含まれています。楽天グループは、この番号が何に使われるものかを説明していません。一般に、社内用の識別番号は、それだけで本人に連絡したりログインしたりできる情報ではありません。ただ、同じ番号を使う別のデータと突き合わせると、事象①と事象②の両方に含まれる人を見つける手がかりになりえます。これは一般論で、本件でそうした突き合わせが起きたとは公表されていません。

発表は「不正アクセスの対象となった」という言い方で書かれています。対象となった情報が実際に外部へ持ち出されたのか、閲覧された可能性があるという段階なのかは、発表の文言からは区別できません。このレポートでは、発表の言い方に合わせて「対象となった」と書いています。

発表の言葉が示すこと、示さないこと

漏えいの発表では、似た言葉がそれぞれ別のことを指します。楽天グループの発表に出てくる言葉を、示していることと示していないことに分けて整理します。

図表13発表の言葉の読み方
発表の言葉示していること示していないこと
異常を検知(事象①)/不正アクセスの可能性を検知(事象②)楽天グループが異常に気づいた日第三者が入り始めた日
原因を特定楽天グループが原因を突き止めた日原因が何だったか
システム改修を完了原因に対する手当てを終えた日改修の中身、同じ種類の問題がほかにないかの確認の範囲
不正アクセスの対象となった第三者の不正アクセスが、その情報に及んだこと情報が実際に外部へ持ち出されたかどうかの区別
最大約対象になりうる件数の上限の見積もり実際に影響を受けた人の数
当該サイト以外では同様の事象は確認されていない楽天グループのモニタリングの範囲では、ほかのサイトに同じ事象が見つかっていないことモニタリングの範囲と方法
二次被害は現時点では確認されていない楽天グループが把握している範囲で、本件に起因すると考えられる被害がないこと今後、不審な連絡などが起きないこと

楽天グループの発表(2026年10月26日)の言葉をもとにKEYRING編集部が整理。「示していないこと」は発表に書かれていない事柄で、楽天グループが把握していないという意味ではない

10月にはJPCERT/CCが、国内で相次ぐ不正アクセスについて注意喚起を出し、公開しているアプリを解析してAPIの入り口や鍵を特定する手口や、既知の脆弱性を探して悪用を試みる手口などを報告しています。JPCERT/CCは、すべての事案で同じ手口が使われたことを示すものではないと断っています。楽天トラベルの事案がこれらに当たるかどうかは、公表された情報からは分かりません。

8別件:「楽天会員1億100万件」の販売投稿

10月上旬には、楽天の会員情報とされるデータの販売投稿が話題になりました。今回の楽天トラベルの発表とは別の件です。混同を避けるため、分かっていることを並べます。

ITmedia NEWSの10月7日の記事によると、盗んだデータなどが売買されるサイバー犯罪フォーラムに、楽天の会員情報とするデータ約1億100万件を販売すると主張する投稿が現れ、投稿は4日に確認されたと報じられました。販売者は「楽天のデータベース」と説明し、約1億100万件を700ドルで販売すると記載していたとされます。楽天グループはITmedia NEWSの取材に「情報漏えいが発生したという事実は確認されておりません」と回答し、投稿に掲載されたサンプルデータについても「該当するアカウント等は確認されておりません」と回答しました。

図表1410月に楽天グループをめぐって伝えられた3つの件
件何が起きたか楽天グループ側の説明
「楽天会員1億100万件」の販売投稿(10月4日確認と報道)サイバー犯罪フォーラムに、楽天の会員情報とするデータ約1億100万件を700ドルで販売するという投稿情報漏えいが発生したという事実は確認されていない。サンプルデータも該当するアカウント等は確認されていない(ITmedia NEWSへの回答)
「楽天ドライブ」への不正アクセス(10月6日公表)「楽天ドライブ」のお知らせによると、管理用アカウントの認証情報が不正に取得され、1万5382アカウントの保存データなどが取得・閲覧されたことを確認した「楽天ドライブ」のお知らせ。ITmedia NEWSが販売投稿との関連を質問したところ、楽天グループの回答は関連の有無に触れていなかった
楽天トラベルへの不正アクセス(10月26日公表)海外ホテル予約サイトの一部ページと多言語予約サイトで、利用者と従業員の情報が対象になった楽天グループの発表。販売投稿や楽天ドライブとの関係には触れていない

出典:「楽天ドライブ」のお知らせ(10月6日10時10分時点の版)、ITmedia NEWS(10月6日、10月7日)、ケータイ Watch(10月6日)、楽天グループ(10月26日)。楽天ドライブの発表元を、ITmedia NEWSは楽天モバイル、ケータイ Watchは楽天シンフォニーと書いている

販売投稿の件数(約1億100万件)と、楽天トラベルの発表の件数(最大約260万件など)は、桁も中身も違います。販売投稿について楽天グループは漏えいを確認していないと回答しており、今回の楽天トラベルの発表もその投稿との関係に触れていません。そのため、このレポートでは、楽天トラベルの事案を「1億件の漏えいの一部」とは扱いません。

同じ月に公表された「楽天ドライブ」の件

販売投稿の報道と同じ週の10月6日には、クラウドストレージ「楽天ドライブ」のサポートサイトに「【重要】『楽天ドライブ』における不正アクセスの発生について」が掲載されました。それによると、第三者が楽天ドライブで使う一部システムの管理用アカウントの認証情報を不正に取得し、システムにアクセスしたことで、次の情報が取得・閲覧されたことを確認したとしています。1つ目は2026年8月27日、687件のアカウント名・ディスプレイネーム・プロフィール用画像URL。2つ目は同じ日、313件の、同じ項目に加えて暗号化されたパスワードと、暗号化の際に加えた文字列。3つ目は1月29日から9月17日、1万5382件の保存データ(写真・文書等を含む)です。発表元の会社名は、報道によって楽天モバイル、楽天シンフォニーと書き方が分かれています。

ITmedia NEWSによると、同誌が販売投稿と楽天ドライブの件の関連を楽天グループに質問したところ、回答は楽天ドライブについて顧客に案内しているというもので、関連の有無には触れていませんでした。楽天ドライブの件は、侵入の原因(管理用アカウントの認証情報の不正取得)が公表されている点で、原因が公表されていない楽天トラベルの件と違います。楽天ドライブの件と楽天トラベルの件の関係も、どちらの発表にも書かれていません。

読むときの注意

サイバー犯罪フォーラムでの販売の主張は、データが本物かどうかを販売者以外が確かめにくく、件数が誇張されることもあります。当事者の発表と、第三者による販売の主張は、分けて読む必要があります。

9旅行・宿泊の予約情報が狙われる理由

旅行や宿泊の予約情報には、氏名や連絡先に加えて、いつ、どこに泊まるか、いくら払うかが含まれます。予約の内容を知っている相手からの連絡は、本人には本物の連絡に見えます。2026年9月以降に国内で公表された宿泊予約の事案では、この点が実際の被害の形として現れました。

宿泊予約サイトコントローラー「TEMAIRAZU」を提供する手間いらず株式会社は、9月21日深夜ごろに、複数の宿泊施設から、予約者にWhatsAppやメール、SMSなどで不審なメッセージが届いているとの連絡を受けたと発表しました。メッセージには、予約の確認・確定、クレジットカード情報の再入力、緊急の支払いなどを求めるものがあったとされます。同社は10月9日、最大で約445万人分の宿泊予約情報が第三者に閲覧または取得された可能性があると公表しています。

図表15予約情報を使った、なりすましの連絡の一般的な流れ
外に出た予約情報 氏名・メールアドレス・電話番号 施設名・日付・予約金額 カードの下4桁など 本物らしい連絡 施設や予約サイトを名乗る メール・SMS・メッセージアプリ 予約の内容が正しく書かれている 偽のページへ 「予約の確認」「カードの再入力」 「緊急の支払い」を求める 入力した情報が盗まれる 一般的な手口の整理。楽天トラベルの件でこうした連絡が確認されたとは公表されていない

INTERNET Watch(2026年10月1日)、TRAICY(2026年10月10日)が伝えた手間いらずの事案の内容をもとにKEYRING編集部が作成

楽天トラベルの事象①の予約者の情報には、施設名と予約金額、同伴者の氏名、カードの下4桁などが含まれます。こうした組み合わせは、一般に、なりすましの連絡を本物らしく見せる材料になります。楽天グループは、対象となった情報のみでは決済の不正利用はできないとしたうえで、対象の利用者に個別の連絡と注意喚起を行うとしています。本件に起因すると考えられる二次被害は、現時点で確認されていないとしています。

10旅行予約の業界で起きた過去の事案

旅行予約の会社や宿泊の予約を扱うシステムは、国内外で繰り返し不正アクセスの対象になってきました。公表された内容がはっきりしている事案を並べます。いずれも楽天トラベルの事案とは別の事案で、手口が同じだという意味ではありません。

図表16旅行予約・宿泊の分野の主な事案
時期事案公表された内容
2016年6月公表JTB(子会社i.JTB)取引先を装ったメールの添付ファイルを従業員が開き、パソコンやサーバーがウイルスに感染。顧客情報が最大約793万人分流出した可能性(日本経済新聞)
2020年10月(英当局の制裁)Marriott International(旧Starwoodの予約データベース)2014年に始まった攻撃で、世界で推定3億3900万件の宿泊客の記録が影響を受けた。英国の情報コミッショナー局がGDPR違反で1840万ポンドの制裁金を科した
2026年9〜10月手間いらず「TEMAIRAZU」予約者に不審なメッセージが届き発覚。最大約445万人分の宿泊予約情報が閲覧または取得された可能性
2026年10月アドベンチャー「skyticket」10月2〜4日の不正アクセスで、最大1464万件の顧客の記録が対象となった可能性。うち約413万件はログインパスワードを含む可能性(Japan Times。速報)
2026年10月エイチ・アイ・エス(タイの現地法人)前年12月の不正アクセスで、最大627人分の旅券情報が漏れた可能性(Japan Times。速報)
2026年10月楽天トラベル海外ホテル予約サイトの一部ページと多言語予約サイト。図表3・図表7

出典:日本経済新聞(2016年6月17日)、Hunton Andrews Kurth「ICO Fines Marriott International £18.4 Million for Security Breach」(英情報コミッショナー局の2020年10月30日の発表を紹介)、INTERNET Watch(2026年10月1日)、TRAICY(2026年10月10日)、The Japan Times(2026年10月9日)、楽天グループ(2026年10月26日)

JTBの事案について、日本経済新聞は、送信元のメールアドレスが取引先の全日本空輸のものを装っており、従業員は疑いを持たなかったと伝えています。旅行の会社は、航空会社やホテル、提携先と日常的にメールをやり取りします。取引先を装う連絡が紛れ込みやすい業種だという点は、6章で触れた宿泊施設の担当者を狙う手口とも重なります。

Marriottの事案では、攻撃は2014年に買収前のStarwoodの予約システムで始まり、Marriottは2016年にStarwoodを買収しました。英国の情報コミッショナー局は2020年10月、この件でMarriottにGDPR違反として1840万ポンドの制裁金を科しました。

2026年の秋には、旅行の分野で事案の公表が重なりました。The Japan Timesは10月9日、アドベンチャー、エイチ・アイ・エス、手間いらずの3社の事案をまとめて報じています。これらの事案と楽天トラベルの事案の関係は、どの会社の発表にも書かれていません。

The Japan Timesによると、skyticketを運営するアドベンチャーは、不正アクセスを遮断して調査を進めるとともに、保存したクレジットカードでの支払いを一時停止し、メールやテキストメッセージ、電話を使ったフィッシングへの注意を呼びかけました。エイチ・アイ・エスは、公表が遅れた理由について、個人情報と関係のない大量のデータが混ざっていて、手作業の調査が難しかったと説明しています。事案が起きてから公表までの期間は、調査の難しさによって大きく変わります。楽天トラベルの事象①で、改修から公表までに40日あった理由は公表されていません。

図表172026年秋の旅行分野の事案で、気づいた時期と公表の時期
事案気づいた・起きた時期公表
手間いらず9月21日深夜ごろ、宿泊施設から不審なメッセージの連絡9月28日に初報、10月9日に最大約445万人分と公表
アドベンチャー10月2〜4日に不正アクセス10月9日の週に公表(The Japan Timesは「金曜日」と報道)
エイチ・アイ・エス前年12月に不正アクセス2026年10月に公表。手作業の調査が難しかったと説明
楽天トラベル事象①は9月10日、事象②は10月20日に検知10月26日に2つまとめて公表

出典:INTERNET Watch(10月1日)、TRAICY(10月10日)、The Japan Times(10月9日)、楽天グループ(10月26日)。時期の書き方は各社の発表・報道の表記に合わせた

公表までの期間は、事案ごとに数日から10か月ほどまで幅があります。調査で何を確かめてから公表するか、確かめ終わる前にどこまで知らせるかの判断は、会社によって分かれます。一方で、利用者の側から見ると、気づいた時期と公表の時期の間に、なりすましの連絡が届く可能性があります。手間いらずの事案は、不審なメッセージが届いたことで発覚しました。

11国内の報告の決まりと、海外の規制

楽天グループは、本件を日本の個人情報保護委員会と、国外の各関係当局に報告したとしています。報告の日付と、海外のどの当局に報告したかは公表されていません。ここでは、日本と、事象に関わりうる国・地域の決まりを一般論として整理します。

日本:個人情報保護法の漏えい等報告

個人情報保護法は、要配慮個人情報が含まれる場合、財産的被害が生じるおそれがある場合、不正の目的をもって行われたおそれがある場合、1,000人を超える場合のいずれかにあたる漏えい等(そのおそれを含む)について、個人情報保護委員会への報告と本人への通知を求めています。報告は、速やかに(概ね3〜5日以内)行う速報と、30日以内(不正の目的をもって行われたおそれがある場合は60日以内)の確報の2段階です。

期限は、事業者が報告の対象となる事態を「知った日」から数えます。法律事務所の解説によると、個人情報保護委員会はパブリックコメントへの回答で、日数に土日・祝日を含むこと、初日を含めて数えることを示しています。楽天グループが報告の対象となる事態をいつ知ったかは公表されていないため、本件の報告が期限のどこに当たるかは、公開された情報からは判断できません。

本人への通知について、個人情報保護委員会は、状況に応じて速やかに、概要、個人データの項目、原因などを、本人にとって分かりやすい方法で知らせるよう求めています。通知が難しい場合は、ホームページでの公表や問い合わせ窓口の設置といった代替措置もとれるとしています。楽天グループは、サイトでの掲載と個別の連絡の両方を行うとしています。

図表18漏えいの報告に関する主な決まり(一般論)
国・地域決まり報告の期限
日本個人情報保護法の漏えい等報告。不正の目的のおそれがある場合や1,000人を超える場合などが対象速報は速やかに(概ね3〜5日以内)、確報は30日以内(不正の目的のおそれがある場合は60日以内)。知った日を1日目として数える
EU一般データ保護規則(GDPR)第33条。個人データ侵害を監督機関に通知する不当な遅滞なく、可能な場合は侵害を知ってから72時間以内
シンガポール個人データ保護法(PDPA)。重大な害が生じうる場合や、500人以上の場合に個人データ保護委員会(PDPC)へ通知する通知が必要な侵害だと判断してから3暦日以内

出典:個人情報保護委員会「漏えい等報告・本人への通知の義務化について」「漏えい等の対応とお役立ち資料」、牛島総合法律事務所「個人情報の漏えい等報告についてのFAQ」、GDPR第33条(gdpr-info.eu)、シンガポール個人データ保護委員会「Guide on Managing and Notifying Data Breaches under the PDPA」。楽天グループがどの国の当局に報告したかは公表されておらず、表は本件に適用された決まりを示すものではない

事象①の対象エリアにはヨーロッパが含まれ、事象①のページを管理・運営するRakuten Travel Xchangeはシンガポールを拠点にしています(トラベルボイス)。ただし、海外の規制が適用されるかどうかは、事業者の拠点だけでなく、利用者の所在や処理の形などで決まります。GDPR第33条は、侵害が個人の権利と自由にリスクを生じさせる可能性が低い場合を除いて、管理者に監督機関への通知を求めています。シンガポールの個人データ保護委員会の案内は、影響を受けた人が500人以上の侵害を「重大な規模」とし、所定の個人データが含まれていなくても通知が必要だとしています。楽天グループは日本以外の当局にも報告したとしていますが、その国や当局は公表されていません。

個人情報保護委員会は10月7日、相次ぐ漏えいを受けて「大規模な漏えい等事案を踏まえた対応について(注意喚起)」を公表しました。報道によると、フィッシングに強いものを含む多要素認証、不正アクセスの兆候を早く見つける監視、不要になった個人データの消去などの対策例を示しています。認証の対策例は、組織の外からのアクセス、管理者の権限でのアクセス、重要な個人データへのアクセスの3つの場面を挙げています。予約サイトでは、宿泊施設の担当者が外部から管理画面に入ることが日常的にあり、事象②で従業員の情報が対象になったことを考えると、施設向けの管理画面の認証をどう強めるかは、予約の仕組みを運営する企業に共通する論点になります。

JPCERT/CCの注意喚起は、APIを通じたアクセスへの対策として、単位時間あたりのリクエストの件数を制限すること、ログインやパスワードの再設定など悪用のおそれが高い機能に個別の回数制限をかけること、非公開のものを含む各APIの入り口でアクセス制御をかけること、APIのトークンに必要最小限の権限と適切な有効期限を与え、漏えいが疑われたらすぐ無効にできるようにすることを挙げています。さらに、法令や契約で定めた保存期間を過ぎたデータや、利用の目的を終えたデータを残さないことも求めています。予約の仕組みは、外部の予約サイトや施設の管理画面とAPIでつながることが多く、これらの項目は旅行予約の分野でもそのまま当てはまります。本件の原因がAPIに関わるものだったかどうかは公表されていません。

12利用者・宿泊施設・企業が取るべき対応

楽天グループは、対象の利用者・予約者に順次、個別に連絡と注意喚起を行うとしています。問い合わせ先は、事象①が専用のメールアドレス、事象②が言語ごとのフォーム、事象②の管理画面については宿泊施設の関係者向けのフォームです。楽天グループの案内に、一般的な備えを加えて整理します。

図表19楽天トラベルの海外ホテル予約・多言語予約を使った人が確かめる順番
  1. まず楽天や宿泊施設を名乗る連絡のリンクを開かない

    予約の確認、カード情報の再入力、緊急の支払いを求める連絡が来たら、メールやメッセージのリンクではなく、自分でブックマークした公式のページやアプリから予約を確かめる(編集部の推奨。手間いらずの事案で実際に届いた連絡の内容を参考にした)。

  2. まず楽天グループからの個別の連絡を確かめる

    楽天グループは対象の利用者・予約者に個別に連絡するとしている。連絡の真偽に迷ったら、発表に載っている問い合わせ先から確かめる。

  3. 次にカードの利用明細を見る

    事象①で支払情報が対象となった人は、カードの利用明細に身に覚えのない請求がないかを確かめる。楽天グループは、対象の支払情報のみでは不正利用はできないとしている(明細の確認は編集部の推奨)。

  4. 次に身に覚えのない請求は、カード会社に連絡する

    明細に心当たりのない請求があれば、カードの裏面に書かれたカード会社の窓口に連絡する。メールやSMSに書かれた電話番号やリンクは使わない(編集部の推奨)。

  5. 次に同伴者にも知らせる

    事象①の予約者の情報には、同伴者の氏名と居住国が含まれる。一緒に泊まった人にも、不審な連絡に注意するよう伝える(編集部の推奨)。

  6. これから使い回しているパスワードを分ける

    事象①の予約者の項目に付いた注記では、パスワードは含まれないとされている。ログインした最大約260万件にこの注記がかかるかは発表の書き方からは読み取れず、事象②にパスワードが含まれるかは記載がない。いずれにしても、このサイトで使うパスワードをほかのサービスでも使っているなら、別々のものにしておくと今後の被害を防ぎやすい(編集部の推奨)。

出典:楽天グループ(2026年10月26日)、INTERNET Watch(2026年10月1日)。「編集部の推奨」とした項目は、楽天グループの案内ではなくKEYRING編集部の整理

宿泊施設と、予約の仕組みを運営する企業が確かめること

宿泊施設
  • 予約サイトの運営会社を名乗るメールのリンクから、管理画面にログインしていないか
  • 管理画面のアカウントに多要素認証を設定できるなら、設定しているか
  • 宿泊客から不審な連絡の問い合わせが来たときの、案内の文面と窓口を決めているか
予約の仕組みを運営する企業
  • 子会社や提携先が運営するページを含めて、どこにどの利用者の情報があるかを把握しているか
  • 予約者の情報と、施設の担当者の情報を、別の権限で守っているか
  • 漏えいの対象を、対象者の種類、件数、項目ごとに一覧にできる記録を持っているか
経営層
  • 海外の拠点やグループ会社で起きた事案を、日本と海外の両方の報告の決まりに照らして判断する流れがあるか
  • 販売の主張など、真偽の分からない情報が出回ったときに、確認の結果をどう伝えるかを決めているか
  • 個人データを持ち続ける必要があるかを、定期的に見直しているか

手間いらずの事案では、システムを使っていた宿泊施設が、それぞれのサイトで宿泊客に注意を呼びかけました。INTERNET Watchによると、ホテルグランドヒル市ヶ谷は、一部の予約者にWhatsAppで不審なメッセージが送られたことを確認したとして、注意を呼びかけています。予約の仕組みの事案では、宿泊客が最初に問い合わせる相手は、予約サイトではなく宿泊施設であることも少なくありません。施設の側で、どの連絡が本物かを答えられる準備をしておくことが、宿泊客の被害を防ぐことにつながります。

宿泊施設と企業向けの確認項目は、公開された情報と、Microsoft、Booking.com、個人情報保護委員会の資料をもとにKEYRING編集部が整理したものです。関連する事案は、原因別の一覧「不正アクセス」「委託先での事故」でも読めます。

13提言

今回の事案では、運営する会社の違う2つのサイトで、利用者と宿泊施設の従業員の情報が対象になり、件数は4つの「最大約」に分かれました。予約の仕組みを運営する企業と、それを使う宿泊施設に向けて、4つの提言をまとめます。

1何が何件かを、一覧で示す

件数が複数に分かれる公表では、対象者の種類、件数、項目を1つの表にまとめる。要約で内訳が落ちても、原文に当たれば全体が分かる形にしておく。

2予約者の情報と、施設の担当者の情報を分けて守る

施設の担当者のアカウントは、宿泊客への連絡に使われうる入口になる。担当者の情報と管理画面には、予約者の情報とは別の権限と多要素認証をかける。

3グループ会社や委託先のページも、点検の範囲に含める

グループ会社や委託先が運営するページも、点検と監視の範囲に含める。海外の拠点がある場合は、その国の報告の決まりも合わせて確かめる。

4真偽の分からない販売の主張には、確認の範囲を分けて伝える

真偽の分からない販売の主張が出回ったときは、確認した範囲と、確認できていない範囲を分けて伝える。

提言は、公開された情報をもとにKEYRING編集部が考えたものです。

セキュリティに関するご相談自社の状況を相談する

情報漏えいや脆弱性について、自社の状況の確認やご相談をお受けします。

ご相談はこちら→
ほかの調査レポート No.012 2026年10月26日アンビションDXのランサムウェア被害は、なぜ58万件の情報漏えいのおそれに広がったのか→ No.011 2026年10月26日不正アクセスによる「ふるさとチョイス」会員情報445万件の流出で、何が分かり、何が分かっていないのか→ No.010 2026年10月26日リクルート「カーセンサー」の不正アクセスで、何がどこまで漏えいしたのか→ すべての調査レポート(13本)を見る

用語集

Rakuten Travel Xchange
楽天グループの子会社。シンガポールを拠点に、宿泊施設のホールセールと旅行テクノロジー事業を担う(トラベルボイス)
多言語予約サイト
楽天トラベルの、日本語以外の言語で予約できるサイト
管理画面
宿泊施設の担当者が、予約サイト上の施設の情報や予約を扱うための画面
発行者識別番号
クレジットカード番号の先頭の数桁。カードを発行した会社を示す
サイトコントローラー
複数の予約サイトの在庫や料金、予約を宿泊施設がまとめて管理するためのシステム
フィッシング
実在の会社などを装った連絡で偽のページに誘い、認証情報やカード情報を入力させる手口
漏えい等報告
個人情報保護法にもとづき、一定の漏えいが起きたときに事業者が個人情報保護委員会へ行う報告。速報と確報の2段階
GDPR
EUの一般データ保護規則。個人データ侵害が起きたとき、監督機関への通知を原則72時間以内に求める
PDPA
シンガポールの個人データ保護法。一定の侵害について、個人データ保護委員会(PDPC)への通知を求める

参考文献

このレポートは2026年10月26日時点の公開情報にもとづきます。楽天グループが続報を出した場合は、内容を更新します。