セキュリティに関するご相談→
情報漏えい原因調査レポート No.012

アンビションDXのランサムウェア被害は、なぜ58万件の情報漏えいのおそれに広がったのか

都心のデザイナーズマンションの賃貸管理を主力とする不動産会社で、2026年8月6日、ファイルサーバーの障害とログの消失が確認された。2か月半の調査の末、攻撃者はネットワーク機器から入り、業務文書を持ち出したうえでランサムウェアを使ったと推定された。入居審査の書類や保険金の振込先まで含む情報の範囲と、初動・復旧の経過を、公開情報で追う。

2026年10月26日 公開KEYRING編集部2026年10月26日時点の公開情報にもとづく読了の目安 約25分
アンビションDXホールディングスのロゴ
株式会社アンビションDXホールディングスam-bition.jp

数字で見る今回の事案

出典は各数字の下に記載
漏えいのおそれがある個人情報
58万件

約58万件。攻撃者が持ち出した可能性を否定できない範囲に保管されていた情報(最終報 10月20日)

持ち出しを確認したファイル
14万件

約14万件。外部専門機関の調査などで、攻撃者が実際に外部へ持ち出したと確認されたもの(最終報)

第1報から最終報まで
75日

8月6日の第1報から10月20日の最終報まで。公表は4回。日数は編集部が数えた

新しいネットワーク環境への切替
1日

8月6日未明の障害の翌日、8月7日に切替を完了(第2報)。8月28日には全システムの復旧を公表

管理戸数
28,427戸

首都圏の賃貸管理受託市場に占めるシェアの算定に使った同社の値(事業計画及び成長可能性に関する説明資料 9月30日)

ランサムウェアの被害報告(全国)
123件

令和8年上半期。半期の件数として、統計を取り始めた令和2年下半期以降で最多(警察庁)

エグゼクティブ
サマリー

  1. 最初の発表は「アクセス障害」と「ログの消失」だった。8月6日の第1報は、ファイルサーバーの障害とログの消失を伝え、流出の有無は分かっていないとした。ランサムウェアという言葉が発表に出たのは、10月20日の最終報が初めてである。
  2. 「持ち出しの形跡なし」から「約14万ファイルの持ち出し」へ変わった。8月7日の第2報は、データが外部へ持ち出された形跡は確認されていないとした。8月28日の第3報で漏えいを確認し、最終報で約14万ファイルの持ち出しを確認した。初期の調査結果は、あとから大きく変わりうる。
  3. 侵入口はネットワーク機器と推定された。最終報は、攻撃者が同社のネットワーク機器を経由して侵入したと推定した。機器の種類や手口は、同種被害の防止と捜査への影響を考え、公表を差し控えている。同社の機器がVPN機器かどうかは公表されていない。なお、警察庁の調査では、ランサムウェアの侵入経路の約5割がVPN機器である。
  4. 漏れたのは、入居審査や保険金の支払いの書類だった。特定された情報のうち、入居審査の書類(449件)には住所・連絡先・勤務先が、賃貸借契約の書類(2件)には年収や同居人・緊急連絡先が、保険金の書類(833件)には口座の情報が含まれていた。
  5. 業務の復旧は早かったが、漏えいの範囲を確定するには時間がかかった。ネットワークの切替は翌日、全システムの復旧は3週間あまりで公表された。一方、何が漏れたかを最終報で示すまでには75日かかった。

1はじめに

2026年10月20日、東証グロース市場に上場する株式会社アンビションDXホールディングスは、8月に起きた不正アクセスの調査結果を「最終報」として公表しました。ネットワーク内のサーバーがランサムウェア攻撃を含む第三者の不正アクセスを受け、約14万件のファイルが持ち出され、個人情報約58万件に漏えいのおそれがあるとしています。

同社は、都心のデザイナーズマンションの賃貸管理を主力に、開発・企画・仕入れ・仲介・販売・保険までを手がけます。被害は同社だけでなく、グループ会社の株式会社ホープ少額短期保険と株式会社アンビション・エージェンシーにも及びました。最終報は、お詫びの相手として、お客様、賃貸管理物件のオーナー、入居者、保険契約者、取引先を挙げています。

KEYRINGの速報(No.0266)では最終報の要点を伝えました。このレポートでは、第1報から最終報までの4回の発表を順に読み、警察庁や個人情報保護委員会などの資料とあわせて、次の問いに答えます。

  • 何が、いつ、どの順番で起きたのか
  • 発表の内容は、調査が進むにつれてどう変わったのか
  • 入居者やオーナー、保険契約者の、どんな情報が漏れたのか
  • 侵入の経路について、何が公表され、何が公表されていないのか
  • 初動と復旧はどう進み、他社は何を学べるのか
調査の方法と範囲

2026年10月26日までに公開された情報を対象にしました。アンビションDXホールディングスの適時開示(8月6日、7日、28日、9月1日、10月20日)と会社資料を第一の根拠とし、警察庁、個人情報保護委員会、国家サイバー統括室、情報処理推進機構(IPA)、JPCERT/CCの資料、報道で補っています。数値は出典の値をそのまま使い、編集部が数えた値はその旨を記しています。攻撃者の名前や身代金の要求など、当事者が公表していないことは「公表されていない」と書き、推測では埋めていません。

2発覚から最終報までの経緯

異常が見つかったのは8月6日の未明です。同じ日の夕方には第1報を出し、翌日には新しいネットワーク環境に切り替えました。漏えいの確認は3週間後、件数の公表は2か月半後でした。

図表12026年の経緯
  1. 8月6日 未明
    ファイルサーバーでアクセス障害、ログの消失を確認

    状況を確かめたところ、ログが消されていた。直ちにネットワークを外部から遮断し、対象のサーバーと関連システムを止めて隔離した。

    出典:第1報(8月6日)
  2. 8月6日 17:30時点
    第1報:不正アクセスの発生を公表

    代表取締役社長を本部長とする緊急対策本部を設け、外部のフォレンジック専門機関に調査を依頼。警察に相談した。情報の流出の有無を含め、被害の全容は判明していないとした。社内業務や取引先とのデータ連携、問い合わせ対応に遅れが出ていた。

    出典:第1報(8月6日)
  3. 8月7日 18:25時点
    第2報:新しいネットワーク環境へ切替

    安全を確認した新しいネットワーク環境への切替を完了し、業務は通常どおり可能と判断した。ファイルサーバーへのアクセスを試みた痕跡はあるが、データが外部へ持ち出された形跡は確認されていないとした。

    出典:第2報(8月7日)
  4. 8月28日 18:00時点
    第3報:情報漏えいを確認

    一部の情報資産で漏えいを確認。お客様、オーナー、入居者、取引先、役職員の氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどが含まれる可能性があるとした。個人情報保護法第26条第1項にもとづき個人情報保護委員会に報告。すべてのシステムの復旧を完了した。

    出典:第3報(8月28日)
  5. 9月1日
    特別損失の計上と決算資料の訂正を公表(本件とは別)

    子会社DRAFT(ライフライン事業)ののれんの減損を特別損失に計上し、8月13日公表の決算短信などを訂正した。不正アクセスに関する記載はない。

    出典:アンビションDXホールディングス(9月1日)
  6. 10月20日
    最終報:約14万ファイルの持ち出し、約58万件に漏えいのおそれ

    攻撃者はネットワーク機器を経由して侵入し、業務文書を持ち出したうえでランサムウェアによる攻撃を行ったと推定。業績への影響は軽微との見込みを示し、調査結果の公表はこれで最後とした。

    出典:最終報(10月20日)

同社は8月の決算発表を控えた時期に被害を受けました。9月1日の特別損失の公表は子会社の事業の見直しによるもので、本件とは関係がありません。最終報は、本件が2027年6月期の業績に与える影響を「軽微」と見込んでいます。

34回の発表で何が変わったか

今回の発表は、調査の進み具合に合わせて内容が大きく変わりました。とくに、データの持ち出しについての記述は、第2報と最終報で正反対です。

図表2発表ごとの記述の比較
項目第1報(8/6)第2報(8/7)第3報(8/28)最終報(10/20)
攻撃の呼び方不正アクセス。障害とログの消失不正アクセス不正アクセスランサムウェア攻撃を含む不正アクセス
持ち出し・漏えい判明していない持ち出しの形跡は確認されていない一部の情報資産で漏えいを確認約14万ファイルの持ち出しを確認。約58万件に漏えいのおそれ
侵入の経路調査中調査中公表を差し控えるネットワーク機器を経由したと推定。詳細は差し控える
業務とシステム遮断と停止。業務に遅れ新環境へ切替。業務は通常どおり可能全システムの復旧を完了新環境で不審な通信は確認されていない
当局警察に相談警察に相談個人情報保護委員会に報告警察に協力

出典:アンビションDXホールディングス 第1報〜第3報、最終報。表は各報の記述を編集部が並べたもの

第1報の段階で同社が把握していたのは、ファイルサーバーの障害と、ログが消されていたことです。ログの消去は、攻撃者が痕跡を消すときに行うことの多い操作で、警察庁もランサムウェア攻撃の流れの最後の段階として挙げています。第2報で「持ち出しの形跡は確認されていない」とされたのは、その時点の調査の結果です。同社自身も「被害の全容が確定したものではございません」と書き添えていました。

発表を読む側にとっては、初期の「流出の形跡なし」を「流出なし」と受け取らないことが大切です。同社は第1報から一貫して、同社や役職員を装った不審なメールや電話への注意を呼びかけていました。漏えいが確定する前から二次被害に備えるよう伝えた点は、他社の初動の参考になります。

4何が漏れたのか

最終報は、漏えいした情報を2つの区分に分けて示しました。区分Aは、攻撃者が実際に外部へ持ち出したことが確認された情報で、ファイルの数(約14万件)で示されています。区分Bは、定義が「Aの内、攻撃者が外部へ持ち出した可能性を否定できない範囲に保管されていた情報」とされ、個人情報の件数(約58万件)で示されています。BはAに含まれる範囲として定義されていますが、Aはファイル、Bは個人情報と数える単位が違うため、14万と58万を直接比べることはできません。定義の文言のほかに、両者の関係の説明はありません。

図表3最終報が示した2つの区分
約14万ファイル

A.攻撃者による持ち出しが確認された情報。外部専門機関の調査などで、攻撃者が実際に外部へ持ち出したことが確認されたもの

約58万件

B.流出した可能性のある情報(漏えいのおそれ)。最終報の定義は「Aの内、攻撃者が外部へ持ち出した可能性を否定できない範囲に保管されていた情報」。公開の有無にかかわらず、漏えいのおそれとして扱う

出典:アンビションDXホールディングス 最終報(2026年10月20日)。区分Bの定義は、最終報の表の記載による

区分Aのファイルを精査して特定された情報は、次のとおりです。会社ごと、書類ごとに、含まれる項目が違います。

図表4特定された情報の内訳
会社区分件数含まれる主な項目
ホープ少額短期保険保険金の支払いに関する情報833件証券番号、契約者氏名、代理店名、事故受付番号、振込日、振込金額、保険金受取人の金融機関名・支店名・口座番号・口座名義
ホープ少額短期保険保険契約に関する情報(顧客管理システムのデータ)363件契約者の氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日など
ホープ少額短期保険解約契約に関する情報465件契約者氏名、証券番号、解約日など
アンビション・エージェンシー不動産リース取引に関する情報(契約書・入居審査資料)449件契約者・入居者の氏名、住所、連絡先、勤務先など
アンビションDXホールディングス賃貸借契約に関する情報2件入居者の氏名、性別、年齢、現住所、携帯電話番号、メールアドレス、勤務先名・所在地・電話番号、勤続年数、年収、賃料などの費用の内訳、転居理由/同居人・緊急連絡先の氏名、続柄、電話番号、住所/仲介会社担当者の氏名、業務用メールアドレス、所属支店

出典:アンビションDXホールディングス 最終報。クレジットカード情報と個人番号(マイナンバー)は、これまでの精査では確認されていないとしている

図表5特定された情報の件数(区分ごと)

出典:アンビションDXホールディングス 最終報。ラベルは図表4の区分の略(保険金=保険金の支払い、解約=解約契約、入居=契約書・入居審査資料、契約=保険契約、賃貸=賃貸借契約)。棒の長さは保険金の支払いに関する情報を100とした比。2件の棒は見えるように最小の幅で示した。合計2,112件(編集部が合計)は、区分Aのファイルから項目まで特定して示された件数の合計で、約58万件との関係は公表されていない

特定して示された件数を足すと2,112件です。この2,112件と約58万件の関係、約58万件がどの会社のどの書類にどれだけあったかは公表されていません。58万件は、持ち出された可能性を否定できない範囲を広くとった数で、実際に持ち出しが確認された人数ではありません。一方で、範囲を狭く見積もって通知や注意喚起の対象から外すより、広く扱うほうが、本人にとっては身を守る機会が増えます。

口座の情報は、なりすましの材料になる

保険金の支払いに関する情報には、受取人の金融機関名、支店名、口座番号、口座名義が含まれていました。口座番号だけで預金を引き出すことはできませんが、本物の振込の記録(証券番号、事故受付番号、振込日、振込金額)と組み合わさると、保険会社を装った連絡が本物らしく見えます。最終報も、同社や金融機関を装ったなりすましメール、不審な電話・郵便物、金融機関口座の不正利用が起きる可能性は否定できないとしています。

5侵入から暗号化までの流れ

最終報は、攻撃の流れを次のように推定しています。8月6日の未明、第三者が同社のネットワーク機器を経由してネットワークに入り、同社とグループ会社のサーバー・端末の一部に保管されていた業務文書を外部に持ち出したうえで、ランサムウェアによる攻撃を行いました。

図表6公表された攻撃の流れと、公表されていない部分
攻撃者 名前は公表されていない ネットワーク機器 種類・手口は差し控え 社内のサーバー・端末 同社とグループ会社の一部 業務文書を外部へ持ち出し 約14万ファイル ランサムウェアで攻撃 8月6日未明に障害・ログ消失 持ち出しの「あと」に攻撃したと推定 公表されていないこと 8月6日以前の侵入の有無、機器の種類と脆弱性・認証情報の別、 暗号化の範囲、身代金の要求と対応、攻撃者の名前

アンビションDXホールディングス 第1報・最終報をもとにKEYRING編集部が作成。ランサムウェアの攻撃と持ち出しの順番は、最終報の「持ち出したうえで」という記述による

この流れは、警察庁が示す典型的なランサムウェア攻撃の流れとよく重なります。警察庁によると、近年はインターネットに露出した箇所から攻撃者が遠隔操作でネットワークの内部に入る手口が多くを占め、被害組織へのアンケートでは、侵入経路はVPN機器が約5割です。攻撃者は、修正されていない脆弱性や漏えいした認証情報を悪用して入り、管理者の権限を奪い、重要なデータやバックアップを探します。データを外へ送って盗んだあとに暗号化を実行し、最後にログや使ったツールの痕跡を消して攻撃を終えます。

最終報は「ネットワーク機器」とだけ書いており、それがVPN機器かどうかは示していません。ただ、再発防止策の最初に「各所機器の更新・接続方式の見直し、管理画面への接続元制限、アカウントの多要素認証の必須化」を挙げています。再発防止策の表で、外部接続の見直しが最初の行に置かれています。

6初動と復旧

業務の面では、同社の復旧は早く進みました。第1報の時点で、社内業務や取引先とのデータ連携、問い合わせへの対応に遅れが出ていましたが、翌日には新しいネットワーク環境に切り替え、業務は通常どおり可能と判断しています。

図表7公表された初動と復旧の対応
  1. 8月6日 未明遮断と隔離

    自社のネットワークを外部から遮断し、対象のサーバーと関連システムを止めて隔離した。侵害の痕跡が見つかった機器は、最終報の時点でも隔離を続けている。

  2. 8月6日対策本部と外部の専門機関

    代表取締役社長を本部長とする緊急対策本部を設け、外部のフォレンジック専門機関に調査を依頼した。警察にも相談した。

  3. 8月6日〜なりすましへの注意を先に出す

    流出の有無が分からない段階から、同社や役職員を装った不審なメール・電話への注意を呼びかけた。電子メールの返信に時間がかかることも断った。

  4. 8月7日新しいネットワーク環境へ切替

    安全性を確認した新しいネットワーク環境に切り替え、業務で使う各システムに影響がないことを確かめた。

  5. 8月28日漏えいの確認と報告

    漏えいを確認し、個人情報保護委員会に報告。全システムの復旧を完了した。確定した対象者には個別に連絡するとした。

  6. 10月20日再発防止策の公表

    侵害を受けた機器の再構築または廃棄、全役職員と管理者のパスワードの一斉変更、認証基盤の資格情報のリセット、EDRの導入範囲の拡大などを、実施済みまたは実施予定とした。

出典:アンビションDXホールディングス 第1報〜第3報、最終報

警察庁のアンケートでは、令和8年上半期にランサムウェアの被害を受けた組織のうち、1か月未満で復旧した組織は5割弱にとどまり、復旧に総額1,000万円以上を要した組織が6割を占めます。同社が全システムの復旧を公表したのは、障害から22日後の8月28日でした(日数は編集部が数えた)。どれだけの費用がかかったかは公表されていません。

バックアップと「新しい環境」

同社がバックアップからデータを戻したのか、別の方法で業務を再開したのかは、公表されていません。発表に書かれているのは、「安全性を確認した新たなネットワーク環境」への切替です。侵害された機器を使い続けず、隔離したまま、新しい環境で業務を始める方法をとりました。

JPCERT/CCは「侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ」で、初動の方針として3つを示しています。被害の範囲を把握して被害を最小にすること、考えられる侵入経路をふさぐこと、攻撃者の要求には応じずバックアップから復旧することです。侵入経路をふさがずに復旧すると、別の攻撃グループの被害を受けるおそれがあるため、復旧の前に、侵入経路として考えられる原因はすべて対処するよう求めています。例として、SSL-VPN製品のファームウェアの版、深刻な脆弱性への対応、リモートアクセスの認証方式(多要素認証の有無など)の確認を挙げています。

同社は、侵害の痕跡があった機器を隔離したまま、安全を確認した新しい環境に移りました。最終報の再発防止策には、侵害を受けた機器の再構築または廃棄、「アカウントの再作成」「全役職員・管理者アカウントのパスワード一斉変更」「認証基盤の資格情報のリセット」が並びます。侵入経路をふさぎ、奪われた可能性のある認証情報を使えなくする対応と読めます。

JPCERT/CCは、身代金の支払いを選ぶべきではないとも書いています。暗号化されたファイルが元に戻る保証がないこと、被害の原因が残ったままになること、支払いのあとに別の攻撃や要求を受けるおそれがあることが理由です。同社が身代金を要求されたか、どう対応したかは公表されていません。

7分かっていること、分かっていないこと

最終報で調査結果の公表は終わりました。そのうえで、公表されていない項目が残っています。

図表8公式発表で確認できる範囲(10月26日時点)
項目公表されていること
侵入の経路同社のネットワーク機器を経由したと推定。攻撃手法などの詳細は、同種被害の防止と捜査への影響を考え、公表を差し控える
侵入の時期最終報は「2026年8月6日未明、第三者が当社ネットワークに不正に侵入し」と書く。それ以前からネットワーク内にいたかは公表されていない
攻撃者公表されていない
身代金の要求と対応公表されていない
暗号化の範囲公表されていない。侵害の痕跡は同社とグループ会社の一部のサーバー・端末で確認
漏えいの範囲持ち出しを確認したファイル約14万件。漏えいのおそれがある個人情報約58万件。特定された内訳は図表4
58万件の内訳会社別・本人の種類別(入居者、オーナー、保険契約者など)の件数は公表されていない
二次被害最終報の時点で、同社では確認していない
当局警察に相談し協力。個人情報保護委員会に報告(8月28日時点)
業績への影響2027年6月期への影響は軽微と見込む

出典:アンビションDXホールディングス 第1報〜第3報、最終報

漏えいの範囲についても、最終報は「これまでの精査において」クレジットカード情報とマイナンバーは確認されていないと書いています。精査が続けば、見つかる情報が増える可能性は残ります。同社は、対象者への対応、監視、再発防止の取り組みは続けるとし、二次被害の兆候など公表すべき事実が判明すれば、ウェブサイトなどで知らせるとしています。

手口を公表しない理由として、同社は同種被害の防止と捜査への影響を挙げています。手口を明かせば同じ機器を使う他社への攻撃に使われるおそれがある、という判断です。一方で、機器の種類や脆弱性の有無が分からなければ、同じ機器を使う他社は、自社が同じ状況にあるかを確かめられません。この2つの間で、公表の範囲をどう決めるかは、被害を受けた企業がいつも直面する難しさです。

障害の確認と侵入の時刻

第1報は「8月6日未明」にファイルサーバーのアクセス障害が起きたと書き、最終報は、同じ未明に第三者が侵入し、持ち出しと攻撃を行ったと推定しています。障害の確認と侵入が同じ時間帯と書かれており、侵入がどれだけ前から始まっていたかは、公表された文書からは分かりません。

8不動産会社が預かる情報

アンビションDXホールディングスは、賃貸管理(プロパティマネジメント)事業を主力に、賃貸仲介、売買、少額短期保険などの事業を持ちます。2026年9月30日の会社資料は、首都圏の賃貸管理受託市場を約400万戸とし、同社の管理戸数28,427戸から市場シェアを0.71%と推計しています。

賃貸の取引では、一つの部屋をめぐって、多くの人の情報が会社に集まります。今回特定された賃貸借契約の書類には、入居者本人の勤務先・勤続年数・年収・転居理由に加え、同居人と緊急連絡先の氏名・続柄・電話番号・住所、仲介会社の担当者の名前と業務用のメールアドレスまでが並んでいました。入居者の審査に必要な情報が、そのまま一つの書類にまとまっています。

図表9賃貸の取引で、誰の情報が会社に集まるか
入居者と同居人

氏名、性別、年齢、現住所、携帯電話番号、メールアドレス、勤務先、勤続年数、年収、転居理由。同居人の氏名と続柄

緊急連絡先と仲介会社

緊急連絡先の氏名、続柄、電話番号、住所。仲介会社の担当者の氏名、業務用メールアドレス、所属支店

保険契約者と受取人

契約者の氏名、住所、生年月日。保険金の受取人の金融機関名、支店名、口座番号、口座名義、振込金額

出典:アンビションDXホールディングス 最終報の「特定された情報」をもとにKEYRING編集部が整理。オーナーの情報の項目は、最終報の内訳には示されていない

緊急連絡先として名前を書かれた人や、仲介会社の担当者は、アンビションDXと直接の契約を結んでいない場合があります。自分の情報が漏れたことを知る機会が少ない人たちです。同社は第3報で、漏えいが確認された情報の範囲が確定すれば、対象となる人に個別に連絡するとしています。

賃貸の取引は、賃料や保険料の振込を伴います。同社は第3報と最終報で、電子メールや電話だけで振込先の変更、金銭の支払い、ID・パスワード・暗証番号・口座番号の入力を求めることは一切ないと明記しました。振込先の変更を装う詐欺は、取引の相手と金額を知っている者ほど本物らしく装えます。持ち出された業務文書は、その材料になりえます。

不動産業では、2026年9月1日に三井不動産も、利用するシステムの資格情報が不正に使われ、役職員と社外関係者の情報最大5.5万件が閲覧された可能性を公表しています(No.0103)。手口は異なりますが、取引先や関係者の情報を広く持つ業種である点は共通しています。

9ランサムウェアの被害は過去最多に

警察庁によると、令和8年上半期(2026年1〜6月)のランサムウェアの被害報告件数は123件でした。統計を取り始めた令和2年下半期以降、半期の件数として最も多くなっています。

図表10ランサムウェアの被害報告件数(半期ごと)

出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年9月9日公表)図表4。棒の長さは令和8年上半期を100とした比。R2下は令和2年下半期(2020年7〜12月)

同じ資料は、被害を受けた企業の約6割が中小企業で、業種では製造業が約3割を占め、卸売・小売業、情報通信業、不動産業・物品賃貸業が上位に入るとしています。手口の面では、ランサムウェアの開発・運営を行うグループが攻撃の実行者に道具やリークサイトを提供するRaaS(Ransomware as a Service)が広がり、高度な技術を持たない者でも攻撃を実行できるようになっていると指摘しています。

図表11警察庁の調査に見る、令和8年上半期の被害の姿
約5割

侵入経路に占めるVPN機器の割合(被害組織へのアンケート)

6割

復旧に総額1,000万円以上を要した組織の割合

5割弱

1か月未満で復旧できた組織の割合。被害は長期化する傾向にある

出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年9月9日公表)

KEYRINGの記録でも、2026年8月以降、ランサムウェアによる被害の公表が続いています。原因の種類ごとの一覧はランサムウェアのページにまとめています。

図表122026年8〜10月に公表された、ランサムウェアによる主な被害
公表日組織概要
8月10日REXT HoldingsPOSなどが止まり、顧客情報約104万件に漏えいのおそれ
8月13日赤武エンジニアリングサーバーのファイルが暗号化され、11,712件の個人情報に漏えいのおそれ
9月26日京王電鉄グループのサーバーが攻撃され、一部の営業システムが止まった
10月7日IDCフロンティア一部の地域の設備が止まり、495の企業・自治体に影響
10月7日ライドオンエクスプレスホールディングス委託先のサーバー運営会社が攻撃を受け、登録者情報最大約650万件が漏えいした可能性
10月20日アンビションDXホールディングス約14万ファイルの持ち出し、個人情報約58万件に漏えいのおそれ

出典:KEYRING 情報管理速報(各行のリンク先に、当事者の発表などの出典を掲載)

10規制とガイドライン

個人情報保護委員会への報告

個人情報保護法は、要配慮個人情報が含まれる漏えい等、不正に利用されると財産的被害が生じるおそれがある漏えい等、不正の目的をもって行われたおそれがある行為による漏えい等、本人の数が1,000人を超える漏えい等のいずれかが起きたとき、事業者に個人情報保護委員会への報告と本人への通知を義務づけています。報告は、発覚から速やかに(個人情報保護委員会の案内では3〜5日以内)出す速報と、30日以内(不正の目的のおそれがある場合は60日以内)の確報の2段階です。

同社が個人情報保護委員会への報告を公表したのは、漏えいを確認した8月28日の第3報です。第3報は「個人情報の漏えい等が発生したおそれがあることから」報告したと書いています。報告の義務は、漏えいが確定したときだけでなく、そのおそれがある段階で生じます。

同社が委員会への速報・確報をいつ提出したかは公表されていません。委員会への報告は、証券取引所を通じた適時開示の「最終報」とは別の手続きです。

図表13漏えい等報告の期限と、同社の公表
発覚日 8月6日に異常を確認 8月28日 第3報で報告を公表(提出日は非公表) 3〜5日以内 速報 30日以内 確報 60日以内 確報(不正の目的のおそれがある場合)

出典:個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」、アンビションDXホールディングス 第3報。横の長さは日数のおおよその比。同社がいつ委員会へ速報を出したかは公表されておらず、8月28日は公表の日付である。「発覚日」の解釈は事案ごとに異なる

公的機関が示す対策

ランサムウェアへの備えは、国家サイバー統括室(NCO)の特設ページ「STOP! RANSOMWARE」に、関係機関の資料がまとめられています。警察庁は、特に被害が増えている中小企業を主な対象に、VPN機器などの脆弱性対策、認証情報の適切な管理、バックアップとログの適切な取得、サイバー攻撃を想定した業務継続計画(BCP)の策定、被害が起きたときの速やかな警察への通報・相談を呼びかけています(令和8年上半期の情勢)。手口と対策の詳細は、警察庁の「ランサムウェア被害防止対策」のページにまとめられています。情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向けの1位は「ランサム攻撃による被害」で、11年連続の選出です。

上場企業にとっては、証券取引所の適時開示も情報を出す経路になります。同社は第1報から最終報までを適時開示として公表し、業績への影響が判明した場合は別途知らせるとしてきました。投資家に向けた開示と、入居者や保険契約者に向けた通知は、相手も必要な情報も違います。最終報は、問い合わせ窓口として、個人情報保護管理の専用の電話番号を設けています。

11影響が広がった4つの条件

1侵入はネットワーク機器を経由したと推定された

最終報は、ネットワーク機器を経由した侵入と推定しています。再発防止策の最初に機器の更新と接続方式の見直し、管理画面への接続元の制限、多要素認証の必須化が並んでいます。

2同社とグループ会社のサーバー・端末で、侵害の痕跡が見つかった

侵害の痕跡は、同社とグループ会社の一部のサーバー・端末で見つかりました。特定された情報には、保険、不動産リース、賃貸借という別々の会社・事業の書類が含まれています。再発防止策にネットワークの分離(セグメンテーション)が挙がっていることから、編集部は、複数の会社のサーバー・端末が一つの侵入から届く範囲にあったと見ています。

3持ち出されたのは、個人情報を含む業務文書のファイルだった

最終報は、サーバー・端末の一部に保管されていた業務文書が持ち出されたと推定しています。再発防止策には、機密情報・個人情報を含むフォルダへのアクセス権限の最小化が挙がっています。

4第1報の時点でログが消されており、件数の公表は75日後だった

第1報の時点でログは消されていました。持ち出しを確認したファイルと漏えいのおそれがある個人情報の件数を示したのは、75日後の最終報です。ログの消去と調査にかかった期間の関係を、同社は説明していません。

条件の整理は、公開された情報をもとにKEYRING編集部が行ったものです。条件1は最終報の推定です。条件2と条件4、および条件3の一部は、公表された事実と再発防止策の記述から編集部が読み取ったもので、同社が原因として認めたものではありません。

12利用者と企業が取るべき対応

同社が求めている対応と、公的機関の資料をもとに、入居者・オーナー・保険契約者が確かめることを並べます。

図表14入居者・オーナー・保険契約者が確かめる順番
  1. まず振込先の変更の連絡は、必ず別の経路で確かめる

    同社とグループ会社は、メールや電話だけで賃料・保険料の振込先の変更や支払いを求めることはないとしている。そうした連絡が来たら、記載の番号やURLは使わず、同社の公式の窓口に確かめる。

  2. まず不審な連絡は、問い合わせ窓口に知らせる

    同社の個人情報保護管理の窓口(電話0120-827-826、10時〜18時、メール otoiawase@am-bition.jp。最終報に記載の窓口)に、不審なメール・電話・郵便物の内容を伝える。

  3. あわせて保険金を受け取った口座の動きを見る

    ホープ少額短期保険から保険金を受け取ったことがある人は、口座に身に覚えのない取引がないかを確かめる。口座番号や暗証番号の入力を求める連絡には応じない。

  4. あわせて緊急連絡先になった家族にも伝える

    入居の申込で緊急連絡先や同居人として名前を書いた家族に、同社を装った連絡が来るおそれがあることを伝える。

出典:アンビションDXホールディングス 第3報、最終報をもとにKEYRING編集部が作成

仲介会社の担当者の氏名や業務用のメールアドレスも、賃貸借契約の書類に含まれていました。取引先の企業は、アンビションDXの担当者を装ったメールが自社の社員に届くことを想定し、振込や契約の変更の依頼を、電話など別の経路で確かめる手順を社内で共有しておくと安全です。

企業が自社で確かめること

情報システムの担当者
  • VPN機器やファイアウォールなど、外とつながる機器の一覧と、修正の当て漏れがないか
  • 機器の管理画面に、どこからでも接続できる状態になっていないか
  • ログを、攻撃者が消せない別の場所にも保管しているか
総務・事業部門
  • 入居審査や保険金の書類を、必要な人だけが開ける場所に置いているか
  • 使い終わった審査書類を、保存期間を決めて消しているか
  • 振込先の変更を受けたとき、別の経路で確かめる手順を決めているか
経営層
  • グループ会社のネットワークを分け、一度の侵入で全社に広がらないようにしているか
  • 被害を受けたとき、投資家への開示と本人への通知を、誰がどの順で出すかを決めているか
  • 身代金を要求された場合の判断の手順を、平時に決めているか

13提言

今回の事案では、外とつながる機器という一つの入口から、グループの保険・仲介・管理の書類までが持ち出しの範囲に入りました。業務は翌日に戻せても、漏れた情報は戻せません。この調査から、KEYRINGは次の4つを提言します。

1外とつながる機器を、毎月数えて確かめる

VPN機器などの台数、修正の状況、管理画面の公開範囲を定期的に点検する。多要素認証のない入口を残さない。

2持ち出されることを前提に、書類を置く

入居審査や保険金の書類は、アクセスできる人を絞り、保存期間を過ぎたら消す。暗号化して保管する。

3ログとバックアップは、攻撃者の手の届かない場所に

ログを消されると、何が漏れたかを確かめるのに時間がかかる。ネットワークから切り離した保管先を持つ。

4初期の「形跡なし」を、注意喚起の手を緩める理由にしない

調査の初期の結果は変わりうる。漏えいの確定を待たずに、本人に身を守る方法を伝え続ける。

提言は、公開された情報をもとにKEYRING編集部が考えたものです。

セキュリティに関するご相談自社の状況を相談する

情報漏えいや脆弱性について、自社の状況の確認やご相談をお受けします。

ご相談はこちら→
ほかの調査レポート No.011 2026年10月26日不正アクセスによる「ふるさとチョイス」会員情報445万件の流出で、何が分かり、何が分かっていないのか→ No.010 2026年10月26日リクルート「カーセンサー」の不正アクセスで、何がどこまで漏えいしたのか→ No.009 2026年10月26日ブラストメールへの不正アクセスは、なぜ委託元の情報漏えいに広がったのか→ すべての調査レポート(12本)を見る

用語集

ランサムウェア
データを暗号化して使えなくし、元に戻すことと引き換えに金銭を要求する不正なプログラム。近年は、盗んだデータを公開すると脅す手口と組み合わせる
RaaS
Ransomware as a Service。ランサムウェアの開発・運営者が、攻撃の実行者に道具や環境を提供し、身代金の一部を受け取る仕組み
VPN機器
社外から社内のネットワークに安全に接続するための機器。脆弱性や認証情報の漏えいを突かれると、侵入の入口になる
フォレンジック調査
機器やログを調べ、何が起きたか、何が持ち出されたかを明らかにする調査
EDR
パソコンやサーバーの動きを記録・監視し、不審な動きを見つけて止める仕組み
セグメンテーション
ネットワークを部門や用途ごとに区切り、一か所への侵入が全体に広がらないようにすること
少額短期保険
保険金額が少額で、保険期間が短い保険だけを引き受ける保険業
適時開示
上場企業が、投資判断に影響する重要な情報を、証券取引所を通じて速やかに公表すること

参考文献

このレポートは2026年10月26日時点の公開情報にもとづきます。同社は最終報で調査結果の公表を終えるとしていますが、二次被害の兆候など公表すべき事実が判明した場合は改めて知らせるとしています。新しい情報があれば更新します。最終閲覧日はいずれも2026年10月26日です。