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情報漏えい原因調査レポート No.009

ブラストメールへの不正アクセスは、なぜ委託元の情報漏えいに広がったのか

メール配信サービス「ブラストメール」のサーバーに第三者が入り、全契約者の情報と、一部の契約者が預けていた配信先のリストが持ち出された。ピッコマはメールアドレス100万2404件、東京メトロは約8万件の流出を公表した。1社の委託先から、企業・自治体・団体へ影響が広がった経緯を、当事者の発表で追う。

2026年10月26日 公開KEYRING編集部2026年10月26日10時時点の公開情報にもとづく読了の目安 約30分

数字で見る今回の事案

出典は各数字の下に記載
株式会社ラクスライトクラウド(ブラストメール)blastmail.jp
株式会社カカオピッコマ(ピッコマ)piccoma.com
持ち出しが確認された契約者の情報
全契約者

販売管理システムから、会社名・担当者名・電話番号・メールアドレス・契約と支払いの履歴など(ラクスライトクラウド)

配信先のリストなども漏えいした契約
344件

契約者の情報以外の漏えいが確認された契約。10月26日10時時点。外部機関の調査で変わる可能性がある(同)

ピッコマで流出したメールアドレス
1,002,404件

メールマガジン1回分の配信の宛先。パスワードや購入情報は含まれない(カカオピッコマ)

東京メトロで取得されたメールアドレス
約8万件

「東京メトロイベントメールマガジン」の登録者。メールアドレス以外の登録情報は対象外(東京地下鉄)

侵入されたAPI用のサーバー
2台

侵入してコマンドを実行し、販売管理システムとサービスのデータベースに接続した。侵入経路は調査中(ラクス)

サービスが止まっている期間
6日目

10月21日0時30分から停止。管理画面・API・メールの配信がすべて使えず、再開の日時は未定(10月26日時点)

エグゼクティブ
サマリー

  1. 入られたのは、メール配信を請け負う1社のサーバーだった。第三者がブラストメールのAPI用のサーバー2台に侵入し、販売管理システムとサービスのデータベースからデータを持ち出した。運営するラクスライトクラウドは、侵入経路を調査中としている。
  2. 持ち出された情報は、2つの層に分かれる。1つは、ブラストメールを契約する全事業者の担当者の情報。もう1つは、契約者がメールを送るために預けていた配信先のリストで、10月26日時点で344件の契約で漏えいが確認されている。後者には、ピッコマや東京メトロの会員のメールアドレスが含まれていた。
  3. 委託元の発表は、委託先からの報告を待って少しずつ出た。ピッコマが流出を知ったのは、停止から3日後の10月24日だった。Creemaは23日に「流出の報告は受けていない」と書いたが、25日に追加の調査で流出が分かったと追記した。委託元は、自社のデータの状況を自分では確かめられない。
  4. 同じ月に、メール配信の委託先での事案が続いた。10月には、防災情報の配信サービス(アルカディア)、メール配信サービス「Cuenote FC」(ユミルリンク)でも不正アクセスが公表された。宛先のデータを多くの組織から預かる委託先で、不正アクセスが重なっている。
  5. 法律上の報告や本人への通知は、委託元が担う。個人情報保護委員会のガイドラインでは、委託先が委託元に通知すれば、委員会への報告は委託元が行う。ラクスライトクラウドは、委託元と連名で委員会に報告する手続きを用意したが、本人(メールの受信者)への通知は委託元が行う必要があるとしている。

1はじめに

2026年10月21日、株式会社ラクスは、子会社の株式会社ラクスライトクラウドが提供するメール配信サービス「ブラストメール」で不審なアクセスを検知し、同日0時30分からサービスを止めたと発表しました。同じ日の第2報で、外部の第三者がサーバーに侵入し、個人情報を含むデータを持ち出したことを確認したと公表しています。

ブラストメールは、企業や自治体、団体がメールマガジンや案内のメールを一斉に送るためのサービスです。利用する側は、送り先のメールアドレスをブラストメールに登録して配信します。そのため、ブラストメールへの不正アクセスは、利用する側(委託元)が集めた会員や読者のメールアドレスの漏えいにつながりました。

10月23日以降、東京メトロ、兵庫県、下関市、経済同友会、Creema、日経サイエンスなどが、自らの会員や読者への影響について発表を出しました。10月24日には、電子コミックの「ピッコマ」を運営する株式会社カカオピッコマが、メールアドレス100万2404件の流出を公表しています。KEYRINGでは、ラクスライトクラウドの事案を速報 No.0267、ピッコマの事案を速報 No.0275で取り上げました。

このレポートは、当事者の発表と公的機関の資料、報道をもとに、次の問いに答えます。

  • いつ何が起き、各社はどの順番で発表したのか
  • 何が、どこまで持ち出されたのか
  • 委託先1社への不正アクセスが、なぜ多くの委託元の漏えいになったのか
  • 侵入経路について、何が分かっていて、何が分かっていないのか
  • 個人情報保護法の上で、委託元と委託先はそれぞれ何をするのか
  • メールを受け取る人と、委託している企業は、いま何を確かめればよいのか
調査の方法と範囲

2026年10月26日10時までに公開された情報を対象にしました。ラクスとラクスライトクラウドの発表、影響を公表した委託元の発表、個人情報保護委員会・IPA・JPCERT/CCの資料、報道を読み、数値は出典の値をそのまま使っています。委託元の一覧は、当事者の発表、または当事者の発表を伝えた報道で編集部が確かめたものだけを載せており、影響を受けたすべての委託元ではありません。侵入の経路など、当事者が公表していないことは「公表されていない」と書き、推測では埋めていません。

2検知から各社の公表までの経緯

ブラストメールの停止は、10月21日の未明(0時30分)に始まりました。運営会社の発表は、第1報と第2報が同じ日に出たあと、契約者向けのお知らせページで数時間おきに更新されています。委託元への連絡は22日から届き始め、委託元の発表は、委託先から自社のデータについて報告を受けた順に、23日から25日にかけて出ました。

図表110月の経緯(日本時間)
  1. 10月21日 0:30
    不審なアクセスを検知し、サービスを止める

    ラクスライトクラウドが、ブラストメールのシステムへの不審なアクセスを検知し、サービスを緊急停止した。管理画面とAPIが使えなくなり、メールの配信も1時ごろから止まった。

    出典:ラクス 第1報、ブラストメール お知らせ
  2. 10月21日
    第1報:不審なアクセスの検知と停止を公表

    ラクスが第1報を出した。原因と影響の範囲を調べており、ラクスとラクスライトクラウドのほかのサービスには影響がないとした。

    出典:ラクス 第1報
  3. 10月21日
    第2報:データの持ち出しを確認

    外部の第三者がAPI用のサーバー2台に侵入してコマンドを実行し、販売管理システムとサービスのデータベースに接続して、データを持ち出したと公表した。全契約者の会社名、担当者名、電話番号、メールアドレスなどが対象。侵入経路の詳細は調査中とした。

    出典:ラクス 第2報
  4. 10月21日〜22日
    ラクスがほかの7サービスも予防的に止める

    「昨今のサイバー攻撃のリスクを踏まえ」た予防的な措置として、楽楽販売など7サービスとコーポレートサイトなどを一時停止し、22日に再開した。これらのサービスへの不正アクセスや情報漏えいは確認されていないとしている。

    出典:ラクス(10月21日、22日)
  5. 10月22日 午後
    委託元に連絡が届き始める

    経済同友会は、22日午後にラクスライトクラウドから連絡を受け、自会の登録情報も漏えいの可能性があると認識したと発表している。

    出典:経済同友会
  6. 10月23日
    連名報告の受け付けを始める。委託元の発表が相次ぐ

    ラクスライトクラウドが、個人情報保護委員会への漏えい等報告を委託元と連名で行う手続きを案内した。同じ日、東京メトロが約8万件、兵庫県が延べ約1万4700件の漏えいのおそれを公表。下関市、経済同友会、日経サイエンス、Creemaも発表を出した。

    出典:ブラストメール、東京地下鉄、日本経済新聞、各団体の発表
  7. 10月24日
    ピッコマが100万2404件の流出を公表

    カカオピッコマが、同日ラクスライトクラウドから報告を受けたとして、メールマガジン1回分の宛先のメールアドレス100万2404件の流出を公表した。個人情報保護委員会へ報告し、メールマガジンの配信を止めた。

    出典:カカオピッコマ 第1報
  8. 10月25日 22:25
    Creemaが「流出あり」に追記

    23日時点では流出の報告を受けていないとしていたが、第三者の専門機関が調査の範囲を広げた結果、過去の配信履歴に含まれる一部のメールアドレスの流出が分かったと追記した。件数は報告待ち。

    出典:Creema
  9. 10月26日 10:00
    運営会社の最新の報告:新たな確定情報はなし

    配信先のリストなどの漏えいが確認された契約は344件で、すべてに個別の連絡を終えたとした。外部の調査は続いており、サービス再開の日時は未定。次の報告は26日17時ごろの予定。

    出典:ブラストメール お知らせ(10月26日10時更新)

検知から委託元の公表までに、2日から4日かかっています。委託元は、ブラストメールに何を登録していたかは把握していても、それが持ち出されたかどうかは、運営会社の調査結果を待たないと分かりません。ピッコマの発表の「経緯」の欄も、運営会社による停止(21日)と、運営会社からの報告(24日)の2つで構成されており、その間、委託元は運営会社の報告を待つ形になっていました。

3何が、どこまで持ち出されたのか

運営会社の発表では、持ち出された情報は2つの層に分かれます。1つめは、ラクスライトクラウドが契約者を管理する販売管理システムの情報で、すべての契約者が対象です。2つめは、契約者がメール配信のために預けていた情報(配信先のリストなど)で、こちらは一部の契約者に限られます。

図表2持ち出された情報の2つの層
層持ち主対象項目
契約者の情報販売管理システムラクスライトクラウド(契約者の担当者などの情報)すべての契約者会社名、担当者名、電話番号、メールアドレス、請求先のメールアドレス、契約と支払いの履歴など。クレジットカード番号は同社が保持していない
配信に関する情報サービスのデータベース各契約者(委託元)が集めた会員・読者などの情報一部の契約者。10月26日時点で344件の契約配信先のリストなど。どの項目が含まれるかは契約者ごとに違う。ピッコマはメールアドレスのみ、下関市は氏名とメールアドレス、経済同友会は会社名・所属・役職・氏名・電話番号・メールアドレスの漏えいの可能性を挙げている

出典:ラクス 第2報、ブラストメール お知らせ(10月26日10時更新)、カカオピッコマ、下関市、経済同友会の発表をもとにKEYRING編集部が作成。344件は「現時点の数値」で、外部機関の調査で変わる可能性があると運営会社は書いている

2つめの層の項目は、委託元がブラストメールに何を登録していたかで決まります。メールアドレスだけを登録していた委託元もあれば、差し込み用に氏名や会社名を登録していた委託元もあります。経済同友会が漏えいの可能性を挙げた項目には、会社名、所属部門、役職名、氏名、電話番号まで含まれています。

ピッコマで流出した情報

カカオピッコマの発表によると、流出したのはメールマガジンの1回分の配信で宛先になっていた100万2404件のメールアドレスです。利用者を識別する管理番号や最終課金日などの情報は含まれていないことを確認したとしています。パスワードはブラストメールに預けておらず、氏名とクレジットカード情報はもともと保有していないとしています。「ピッコマノベルズ」のメールマガジンでは、発表時点で流出は確認されていません。

同社は、ピッコマのアプリやWebサービス、自社のシステムが不正アクセスを受けたものではないと説明しています。対応として、メールマガジンの配信を止め、ブラストメールから送られるメールがピッコマの正規のメールとして扱われないよう設定を変えました。漏れたアドレスを使って、ピッコマを名乗るメールが送られるのを防ぐための措置です。

東京メトロで取得された情報

東京地下鉄は10月23日、「東京メトロイベントメールマガジン」の登録者のメールアドレス約8万件が第三者に取得されたと発表しました。メールアドレス以外の登録情報が取得された可能性はないとしています。イベント情報サイトとメールマガジンの新規登録、登録解除、配信を、安全の確認と復旧が終わるまで止めています。

読むときの注意

運営会社が公表している「344件」は契約の数で、メールアドレスの件数ではありません。ピッコマの例では、1回分の配信の宛先だけで100万件を超えていました。持ち出された宛先の総数は公表されていません。各委託元が公表した件数も、集計の仕方がそろっていません(「延べ」「1回分の配信」「登録者」など)。

4委託先1社から、影響はどう広がったか

今回の事案の構図は、1つの委託先に多くの委託元のデータが集まり、その委託先が破られたことで、委託元の側で一斉に漏えいが起きたというものです。委託元は、自社のシステムに何の異常もなくても、会員のメールアドレスの漏えいを公表することになりました。

図表3委託先1社から、複数の委託元とその受信者へ
第三者 侵入経路は調査中 ブラストメール 委託先:ラクスライトクラウド API用のサーバー 2台 侵入され、コマンドを実行された 販売管理システム 全契約者の担当者などの情報 サービスのデータベース 委託元が預けた配信先リストなど 344契約で漏えいを確認 ピッコマメールアドレス 1,002,404件 東京メトロメールアドレス 約8万件 兵庫県延べ約1万4700件のおそれ 下関市氏名・メール(件数非公表) Creema一部のアドレス(件数確認中) 経済同友会漏えいの可能性(未確認) ほかの委託元344契約の全体は非公表 受信者 会員・読者 取引先など

ラクス 第2報、ブラストメール お知らせ、各委託元の発表をもとにKEYRING編集部が作成。委託元は、編集部が当事者の発表または報道で確かめたものの一部。経済同友会は10月23日時点で「漏えいが確認されたとの連絡は受けていない」としている

図の右側にある委託元は、それぞれ別々の目的でブラストメールを使っていました。電子コミックのメールマガジン、鉄道会社のイベント案内、県の情報発信や介護保険サービス事業所への連絡、市の就職支援事業、ハンドメイドマーケットプレイスのメールマガジン、経済団体の政策提言の案内です。業種も規模も違う組織が、同じ1つの配信サービスの上に、それぞれの宛先のリストを置いていました。

ブラストメールの件について発表を出した委託元

次の表は、当事者の発表、または当事者の発表を伝えた報道で、編集部が内容を確かめた委託元です。影響の有無や件数は、各委託元が運営会社から報告を受けた時点のもので、その後に変わることがあります。

図表4ブラストメールの件について発表を出した主な委託元(10月26日時点で確認できたもの)
委託元発表日用途と対象状況
カカオピッコマ10月24日ピッコマのメールマガジン。1回分の配信の宛先メールアドレス100万2404件の流出。個人情報保護委員会に報告済み
東京地下鉄10月23日東京メトロイベントメールマガジンメールアドレス約8万件が第三者に取得された
兵庫県10月23日自治体・経済団体向けメールマガジンの読者、介護保険サービス事業所の連絡先など延べ1万4700件程度のメールアドレスなどの漏えいのおそれ。代表アドレスが中心だが、一部に担当者の個人用アドレスを含む(日本経済新聞)
下関市10月23日委託事業(若者の市内就職・採用活動支援、みらいシゴト発見バスツアー)登録者・参加者の氏名とメールアドレス、企業名とメールアドレスの漏えいの可能性
Creema10月23日、25日追記メールマガジン23日10時時点の運営会社からの連絡では「流出の報告なし」。25日に、過去の配信履歴に含まれる一部のメールアドレスの流出を追記。件数は報告待ち
経済同友会10月23日政策提言の案内、会員総会後の懇談会の案内漏えいの可能性を否定できないとして公表。漏えいの確認の連絡は受けていない
日経サイエンス10月23日メールニュース、記事ダウンロードサービスの利用者23日15時時点で、登録者の情報は流出の対象に含まれていないとの報告を受けた

出典:カカオピッコマ、東京地下鉄、日本経済新聞(兵庫県)、下関市、Creema、経済同友会、日経サイエンスの各発表。兵庫県は県の発表を確認できず、日本経済新聞の報道によった

この表から読み取れるのは、委託元ごとに分かる時期がずれていることです。日経サイエンスは23日15時の時点で「含まれていない」との報告を受け、Creemaも23日10時時点では流出の報告を受けていませんでした。しかしCreemaは25日、第三者の専門機関が調査の範囲を広げた結果として、過去の配信履歴に含まれるメールアドレスの流出を追記しています。「含まれていない」という報告も、調査が進めば変わりうるということです。

5侵入経路について分かっていること、いないこと

運営会社が公表している攻撃の流れは、第2報から10月26日の最新の報告まで変わっていません。第三者がAPI用のサーバー2台に侵入し、そこでコマンドを実行し、販売管理システムとサービスのデータベースに接続して、データを持ち出した、というものです。最初にどうやってサーバーに入ったかは「調査中」とされています。

図表5公表されている攻撃の流れ
第三者 外部から API用のサーバー 2台に侵入し コマンドを実行 販売管理システム に接続 サービスのDB に接続 外部へ データを持ち出し 入り口:調査中 いつから入られていたか、どのコマンドを実行したかは公表されていない

ラクス 第2報、ブラストメール お知らせ(10月26日10時更新)をもとにKEYRING編集部が作成

API用のサーバーがどこに置かれ、どんな役割を持っていたかは公表されていません。公表されているのは、そのサーバーから販売管理システムとサービスのデータベースに接続されたという事実までで、サーバーどうしの接続がどう設計されていたかも公表されていません。

図表6公式発表で確認できる範囲(10月26日10時時点)
項目公表されていること
侵入の経路公表されていない。「侵入経路の詳細は調査中」
侵入された場所API用のサーバー2台。そこから販売管理システムとサービスのデータベースに接続した
侵入の時期公表されていない。検知は10月21日0時30分
持ち出された範囲全契約者の販売管理の情報。配信先のリストなどは344件の契約で確認
持ち出された宛先の総数公表されていない
調査の体制専門機関による外部調査を実施中。完了の目途は判明しだい連絡するとしている
サービスの再開未定。管理画面・APIは0時30分から、メールの配信は1時ごろから停止
二次被害運営会社の発表には記載がない。委託元の多くは、なりすましのメールへの注意を呼びかけている

出典:ラクス 第1報・第2報、ブラストメール お知らせ(10月26日10時更新)

同じ時期に出ていた注意喚起とPHPの脆弱性

JPCERT/CCは10月8日から、国内で相次ぐ不正アクセスについて注意喚起を出し、確認された手口として、ソフトウェアの既知の脆弱性を探して悪用するもの、アプリの管理用APIへの不正なリクエスト、ほかのシステムの侵害で盗んだAPIキーの使用などを挙げています。ただし、JPCERT/CCは、すべての事案で同じ手口が使われたことを示すものではないと断っています。ブラストメールの事案がどれかに当たるかは、公表されていません。

また、ラクスは10月22日、PHPの脆弱性(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)について、自社のクラウドサービスの対応状況を公表しました。対象の一覧にはラクスの13サービスが並び、ブラストメールは含まれていません。Creemaは、PHPの問題を受けた自社の緊急メンテナンスと、ブラストメールの件は別の事案だと説明しています。ブラストメールへの侵入とPHPの脆弱性との関係は、どこからも公表されていません。PHPの脆弱性については、原因調査レポート No.001で詳しく取り上げています。

6同じ月に続いた、メール配信の委託先での事案

2026年10月は、メールを一斉に届けるサービスでの不正アクセスが、ブラストメールのほかにも続きました。どれも、多くの企業や自治体が宛先のデータを預ける委託先で起きています。

図表72026年10月に公表された、一斉配信サービスでの主な事案
公表サービス(運営)公表された内容影響を公表した利用者の例
10月13日SpeeCAN RAIDENアルカディア自治体向けに防災情報などを一斉配信するサービスで、11日に不審な挙動を確認。最大でメールアドレス約313万6千件が漏えいした可能性(日本経済新聞)香川県(防災情報メールの登録アドレス約2万5566件)。登録者に実在のクレジットカード会社を装う不審なメールが届いたことを県が確認
10月14日メール配信の委託先事業者名は非公表メールマガジンの配信業務の委託先が使うクラウド基盤で不正アクセス。漏えいの事実は確認されていないマウスコンピューター(メールアドレス約42万件と配信記録)
10月19日Cuenote FCユミルリンク16日未明に不正アクセスを確認。プログラムの脆弱性から社内のサポート担当者の認証情報を取得され、不正なプログラムを置かれてデータベースから出力された。専用ASPプランの5システムで、メールアドレスを含む情報延べ約900万件野村證券(i-Portの利用者)、@cosme(利用を停止)
10月21日ブラストメールラクスライトクラウドAPI用のサーバー2台に侵入され、全契約者の情報と、344契約の配信に関する情報が持ち出されたピッコマ、東京メトロ、兵庫県など(図表4)

出典:日本経済新聞(10月13日)、香川県、ユミルリンク(10月19日)、ITmedia NEWS(10月20日)、@cosme、マウスコンピューター(10月14日)、ラクス。野村證券はKEYRINGの速報 No.0272による。KEYRINGはアルカディアの事案をNo.0248、香川県をNo.0246、マウスコンピューターをNo.0251で取り上げている

香川県の例は、漏れたメールアドレスが実際に悪用されうることを示しています。県は、防災情報メールの登録者のアドレスに、実在のクレジットカード会社を装う不審なメールが届いたことを確認したと公表しました。メールアドレスだけの漏えいでも、受信者はフィッシングの宛先として使われます。

KEYRINGが記録している国内の事故でも、委託先が原因となった事故は10月に増えています。8月1日から10月24日までに第一報が出た国内の事故120件を、月ごとに数えました。

図表8KEYRINGが記録した国内の事故のうち、原因を「委託先」に分類したもの
59件

10月(24日まで)に記録した国内の事故

10件

そのうち、原因を委託先に分類したもの

4件

委託先の10件のうち、メール配信の委託先に関わるもの

出典:KEYRING編集部の集計(情報管理速報の記録、2026年8月1日〜10月24日に第一報が出た国内の事故)。委託先が侵害を受け、運営会社自身が公表した事故(ラクスライトクラウド、アルカディアなど)は「不正アクセス」に分類しており、この数には含まない。一覧は委託先で起きた情報漏えい事故を参照

過去の例:クラウドの委託先から、3000件を超える報告が出た

委託先1社の被害が多くの委託元の漏えいになった例として、個人情報保護委員会が2024年3月に指導を行ったエムケイシステムの事案があります。2023年6月、社会保険労務士事務所などが使うクラウドサービスのサーバーがランサムウェアに感染し、利用者の顧客の従業員の個人データが暗号化されました。委員会への漏えい等報告は、2024年3月8日時点で3067件、本人の数は計749万6080人にのぼりました(重複の可能性あり)。

委員会はこの事案で、クラウドサービスの提供事業者が、利用者から個人データの取扱いの委託を受けていたと判断しました。あわせて、クラウドサービスの利用が個人データの取扱いの委託にあたる場合があり、その場合は委託元に委託先を監督する義務がある、という注意喚起を行っています。メール配信サービスに宛先を預けることも、この考え方の延長で整理されます(次の節)。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向けの脅威の2位は「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」です。2019年に初めて選ばれ、8年続けて選ばれています。

7漏えい等の報告と、委託先の監督

個人データの漏えいが起き、または起きたおそれがある場合、一定の条件にあたれば、事業者は個人情報保護委員会に報告し、本人に通知しなければなりません(個人情報保護法第26条)。不正アクセスのように不正の目的で行われたおそれがある漏えいは、件数にかかわらず報告の対象です。

図表9委託先で漏えいが起きたときの、報告と通知の流れ
  1. 委託先委託元に速やかに通知する

    委託先が、把握している事項を委託元に通知すれば、委託先自身の委員会への報告義務は免除される。通知の目安は、委託先が事態を知ってから概ね3〜5日以内。

  2. 委託元委員会へ速報を出す

    委託元は、遅くとも委託先から通知を受けた時点で事態を「知った」ことになる。速報の目安は概ね3〜5日以内で、その時点で分かっていることを報告すれば足りる。

  3. 委託元本人に通知する

    状況に応じて速やかに本人へ通知する。通知が難しい場合は、公表と問い合わせ窓口の設置などで代える。

  4. 委託元委員会へ確報を出す

    知った日から30日以内。不正アクセスなど不正の目的によるおそれがある場合は60日以内。委託先は、委託元の報告に必要に応じて協力する。

出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-5-3-3〜3-5-3-5 をもとにKEYRING編集部が作成

今回、ラクスライトクラウドは10月23日に、委託元と連名で委員会に報告する手続きを案内しました。申し込みの期限は10月29日です。同社によると、連名で報告する場合、委託元が個別に報告する必要はなく、速報の目安の期間を過ぎても報告の遅れとしては扱わないことを委員会に確かめているとしています。一方、配信先のリストの漏えいが確認された委託元は、連名を選んでも、本人(読者など)への通知は自ら行う必要があります。プライバシーマークを持つ委託元は、JIPDECへの報告も個別に行います(同案内)。

委託先の監督と「クラウド例外」

個人データの取扱いを委託する場合、委託元は委託先を監督しなければなりません(第25条)。委員会は、エムケイシステムの件の資料で、委託元には、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先での個人データの取扱状況の把握について、必要かつ適切な措置を講じる義務があると整理しています。

一方、委員会のQ&A(Q7-53)は、クラウドサービスの事業者がサーバーに保存された個人データを取り扱わないことになっている場合は、「提供」にも「委託」にもあたらないとしています。契約でそう定められ、アクセスが適切に制御されている場合などです。ただし、その場合でも利用する事業者は、自らの安全管理措置として適切な措置を取る必要があります(Q7-54)。

メール配信サービスは、預かった宛先に実際にメールを送るため、宛先のデータを処理しています。ブラストメールの件では、運営会社が自ら委託元と連名での報告を用意し、委託元のピッコマも委員会に報告しています。どちらの整理になるかは契約の中身によりますが、いずれにしても、委託元は「宛先を預けた先が破られた場合」の手当てを、自社の安全管理の一部として考えておく必要があります。

10月7日の委員会の注意喚起

個人情報保護委員会は10月7日、大規模な漏えいが相次いでいることを受けて注意喚起を出し、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう努めること(第22条)を改めて求めました。不要なデータが残っていたために漏えいが深刻になった事例に接しているとしています。メール配信サービスに残った過去の配信履歴や、使い終わった宛先のリストも、この点検の対象になります。

8影響が広がった4つの理由

1宛先のデータが、1つの委託先に集まっていた

メール配信サービスは、契約者ごとに宛先のリストを預かります。契約者が多いほど、1つのデータベースに多くの組織の宛先が集まります。今回は、配信先のリストなどの漏えいが344件の契約で確認されています。

2API用のサーバーから、販売管理システムとデータベースの両方に接続された

侵入されたのはAPI用のサーバーで、そこから販売管理システムとサービスのデータベースに接続され、両方からデータが持ち出されました。サーバーどうしの間の区切りがどうなっていたかは公表されていません。

3使い終わった宛先も残っていた

ピッコマで流出したのは「1回分の配信」の宛先で、Creemaでは「過去の配信履歴」に含まれるアドレスが流出しました。配信が終わった後も、宛先のデータはサービスの中に残っていたことになります。どれだけの期間残す設定だったかは公表されていません。

4委託元は、自社のデータの状況を自分で確かめられなかった

委託元が持ち出しの有無を知るには、運営会社の調査を待つしかありませんでした。報告は委託元ごとに順に届き、「含まれていない」とされた後に流出が分かった例もあります。その間、委託元は利用者に確定した情報を伝えられません。

理由の整理は、公開された情報をもとにKEYRING編集部が行ったものです。侵入の経路が公表されれば、見直します。

9受信者と委託元が取るべき対応

委託元の発表と公的機関の注意喚起をもとに、メールを受け取る人と、メール配信を委託している企業・団体が取るべき対応を並べます。

図表10メールを受け取る人が気をつけること
  1. いまからお詫びや本人確認を名乗るメールのリンクを開かない

    漏えいのお詫びや「至急ログインを」といった文面を装ったメールが届くことがある。リンクを開かず、公式サイトに同じ内容が出ているかを確かめる(下関市、ピッコマ)。

  2. いまからパスワードやカード番号を、メールから入力しない

    ピッコマは、メールでパスワードやクレジットカード情報の入力を求めることはないとしている。ほかのサービスでも同じ考えで扱う。

  3. 届いたら不審なメールは、委託元の窓口に知らせる

    各委託元が問い合わせの窓口を設けている。東京メトロは専用のフォームと電話を案内している。

出典:カカオピッコマ、東京地下鉄、下関市、香川県の発表をもとにKEYRING編集部が作成

図表11メール配信を委託している企業・団体が確かめる順番
  1. まず使っている配信サービスと、預けている項目を一覧にする

    部署ごとに契約している配信サービスもすべて洗い出し、登録している項目(メールアドレスだけか、氏名・会社名なども入れているか)と件数を書き出す。IPAも10月9日の注意喚起で、利用している外部サービスの洗い出しを求めている。

  2. 次に報告と通知の担当を決め、期限を数える

    委託先から通知を受けた日が、委員会への報告の起点になる。連名報告を選ぶか、自社で報告するかを決め、本人への通知の文面と窓口を用意する。

  3. 続けてなりすましの送信を止める設定を見直す

    ピッコマは、ブラストメールから送られるメールが自社の正規のメールとして扱われないよう設定を変えた。止めた配信サービスに、自社の名前で送る権限を残さない。

  4. 配信の再開前使い終わった宛先と配信履歴を残さない

    配信が終わったリストや、配信を止めた人のアドレスを、サービスの中に残さない運用にする。個人情報保護委員会の10月7日の注意喚起も、不要な個人データの消去を求めている。

  5. 契約の更新時事故のときの連絡と調査の取り決めを契約に入れる

    委託先が侵害を受けたとき、いつまでに、何を、誰に知らせるか。委託元のデータが対象かどうかを、どう確かめて伝えるか。

出典:個人情報保護委員会(ガイドライン通則編、10月7日の注意喚起)、IPA(10月9日)、ブラストメール、カカオピッコマをもとにKEYRING編集部が作成

立場ごとに確かめること

図表12立場ごとの点検項目
立場点検すること
配信サービスの事業者一般論として、APIのサーバーが侵害されても、契約者の管理システムや宛先のデータベースに直接届かない構成になっているか。配信が終わった宛先を、どれだけの期間残しているか。侵害が分かったとき、契約者ごとに対象かどうかを判定して伝える手順があるか
委託元の担当部署配信サービスに預けている項目は、配信に必要な最小限か。管理画面のアカウントとAPIキーを棚卸ししているか。委託先からの連絡を受ける窓口が決まっているか
経営層委託先の事故を、自社の報告・通知の問題として扱う体制があるか。委託先の選定と契約で、事故時の連絡・調査・費用の分担を決めているか

出典:JPCERT/CC(10月8日公開、23日更新)、IPA(10月9日)、個人情報保護委員会の資料をもとにKEYRING編集部が作成

10提言

今回の事案では、委託元の企業や自治体は、自社のシステムに異常がないまま、会員や読者の情報の漏えいを公表することになりました。宛先のデータを預けた先が破られることを、自社の事故として扱う準備が要ります。KEYRINGは次の4つを提言します。

1宛先は、送る分だけ預け、送ったら消す

差し込みに使わない氏名や会社名は登録しない。配信が終わったリストと履歴は、サービスの中に残さない。

2委託先の事故の連絡を、契約で決めておく

侵害が分かったら何時間以内に知らせるか、委託元のデータが対象かどうかをいつまでに判定するか。今回、判定には2日から4日以上かかった。

3配信サービスの側は、入り口とデータの置き場所を分ける

一般に、外から届くAPIのサーバーが侵害されても、契約者の管理情報や宛先のデータベースに直接届かない構成にしておくと、被害の範囲を狭められる。今回の事案の構成がどうだったかとは別に、配信サービスを選ぶ・作るときの確認点として挙げる。

4漏れた後のなりすましを、先に止める

止めた配信サービスから自社の名前でメールが送られないよう、送信の設定を見直す。受信者には、公式サイトで確かめる方法を先に伝える。

提言は、公開された情報をもとにKEYRING編集部が考えたものです。

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用語集

メール配信サービス
登録した宛先に、メールマガジンなどを一斉に送るためのクラウドサービス。宛先のリストはサービスの中に保存される
委託元・委託先
業務を外部に任せる側が委託元、任される側が委託先。個人情報保護法では、委託元に委託先を監督する義務がある
API
ほかのシステムからサービスを操作するための窓口。配信サービスでは、自社のシステムから宛先の登録や配信を指示するのに使う
販売管理システム
契約者の会社名や担当者、契約と支払いの履歴などを管理する社内のシステム
漏えい等報告
一定の漏えいが起きたとき、事業者が個人情報保護委員会に行う報告。速報と確報の2段階で行う
連名報告
委託元と委託先が連名で、1つの漏えい等報告を委員会に出すこと
クラウド例外
クラウド事業者が保存された個人データを取り扱わないことになっている場合に、「提供」「委託」にあたらないとする委員会の考え方(Q&A 7-53)
サプライチェーン攻撃
取引先や委託先を足がかりに、本来の標的の情報やシステムに到達する攻撃

参考文献

このレポートは2026年10月26日10時時点の公開情報にもとづきます。ラクスライトクラウドの調査は続いており、侵入の経路や漏えいの範囲、影響を受けた委託元は、今後の発表で変わる可能性があります。新しい情報があれば更新します。最終閲覧日はいずれも2026年10月26日です。